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「非正規雇用」の問題は、「国家滅亡に至る病」である世界を「数字」で回してみよう(42) 働き方改革(2)(4/11 ページ)

» 2017年08月16日 11時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]

日本の労働形態を一変させた「オイルショック」

 次に、日本の労働形態を、根本的に転換させた大事件が「オイルショック」(関連記事:「“電力大余剰時代”は来るのか(後編) 〜原発再稼働に走る真の意図〜」)。

 この時、日本(特に経営者や政府)は、労働形態や労働条件を均一にするような会社経営では、これからやっていくことができない、ということを悟ります。会社は、国内景気や社会情勢に合わせて、「スライム」や「ゼリー」のようにグニャグニャと変形させ続けねば、生き残っていけないことを思い知りました。

 そして、この時、必要に応じて労働者をぶった切ったり(解雇したり)、大量に買い集めたり(雇用したり)という労働形態、つまり「切り捨てパートタイマー」が、なし崩し的に、社会に承認されました

 この「切り捨てパートタイマー」が、労働運動における争点とならなかったのは、その次にやってきたバブル期のためでした。どこにでも、望んだ仕事がいくらでもあり、労働者は、食べ放題のビュッフェにいるような感覚で、仕事を選び、転職することができる時代*)に、誰も文句を言う必要がなかったのです。

*)今となっては信じられないかもしれませんが、本当にそんな時代があったのです(江端)。

 しかし、その夢は壊れます。バブルの崩壊です。崩壊するだけならともかく、その後、日本は「失われた10年」という悪夢の時代を迎えます。

 会社は従来のように、正社員を雇用し続ける体力を失い、といって、いまさらバブル期前に戻ることもできず、正規雇用されない人間(特に若者)が大量に発生することになったのです。

 この非正規雇用の状態にある人間を、『社会的に自由であり、自由な時間を担保できる人間』という前向きな概念として新しく作られた用語が「フリーター」です*)

*)1987年にリクルートのアルバイト情報誌「フロムエー」が、フリーアルバイターを「フリーター」と略したことから、社会に定着しました。

 そして、フリーターの他、パート、アルバイト、契約社員、派遣社員、嘱託社員など全てを含んだ「非正規雇用(されている社員)」として、今、働き方改革の焦点の1つとして挙げられている訳です。

 乱暴な総括ではあるのですが、私たち日本人は、1930年の「臨時工」から始まって、右往左往しながら、これといった解決策を見いだせることもなく、90年の時を経て、スタートに舞い戻ってきたということです。


 しかし、1930年の「臨時工」と、現時点の「非正規雇用」の間に全くの差がないかというと、決してそういうわけではなかったようなのです。

 それは、「能力」という ―― 一見「当然」とも思え、別の見方をすれば「奇妙」ともいえる ―― 概念の発生です

 現代にあっては、到底信じられませんが、戦前戦後の労働運動において「能力」というのは、雇用条件の争点になっていませんでした。

 今や、「マルクス主義」とか「マルクス経済」とか、そういう言葉の存在を知らない人も多いと思います*)

*)実際、私もよく分かっていません。大学1年生の時、「資本論」は最初の3行を読んで、ゴミ箱に捨てました。

 ここで重要なことは、「余剰価値理論に基づく『同一労働力の同一賃金説』」という考え方です。これは、先ほど述べた、政府が発行している「働き方改革」の白書の中で、そのまんま登場する文言です。

 「マルクス主義」の労働運動のスローガンが、90年の時を経て、ようやく日本国政府に届いた ―― というわけではないでしょうが(当たり前だ)、なんというか、非常に「居心地の悪い感じ」はします。

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