では、ここからは、江端の私見に基づく「非正規社員」問題の犯人探しをしてみたいと思います。しかし、ここでは「政府が悪い」「政治家が悪い」「世間が冷たい」などという、おっさんの飲み会や、おばさんの井戸端会議のようなことはしません。
具体的にオブジェクトを特定して考えた結果、私は、この問題の犯人は2人いる、と考えています。「パソコン(PC)」と「私たち自身」です。
パソコンは、「非正規社員」を製造した従犯といえます。パソコンの嫌らしいところは、操作が面倒で、思い通りに動かなくても、個人の労働力の一部と見なすことができる点にあります。
これは、それまで特殊能力(高度な計算力や、高品質の資料作成能力)を持っている人を、普通の人間に変えてしまい、「正規社員」の要件の1つを失わせることになってしまいました。
しかし、最大級の主犯は「私たち自身」です。なぜなら私たちは、基本的に「変化が大嫌い」だからです。
少なくとも、私(江端)は嫌いです。正規社員の人は、当然に既得権益を守ろうとします。正規社員で構成されている労働組合からは、非正規社員を守るという発想は出てきません。そして、非正規社員の人は、簡単に職場を変えられるというメリットが逆に災いして、労働条件改善のために闘うというモチベーションを発揮できません。そして、社会や政府を批判する人の多くは、ネット上で、匿名で、その場限りの数行のコメントをするだけで、何かした気になって満足して立ち去るだけのモラリストです。
この仕組みを壊す方法は、既に分かっているのです。具体的には、正規社員の過剰なまでの保護を弱め、非正規社員の保護を厚くすれば良いのです。つまり、正規社員と非正規社員のしきい値を、いきなりゼロにできないまでも、もっと小さくすれば良いだけのことなのです。
そして、わが国は、(かなり恥ずかしいことだと思うのですが)国際機関から突っ込みを受けています。
実際に、2007年に第一次安倍内閣は労働ビッグバンを閣議決定し、二極化解消を目指しましたが、この試みは失敗に終わりました。この失敗は、『既得権益を失う労働組合と、保険や年金の負担増を嫌う財界の反対のためであった』という見解があります。
既得権益と言えば ―― 実際、ミクロ経済学のリアル実験場である江端家においてでさえ、正規労働者である私と、非正規労働者である嫁さんと、バランスを取りながら江端家の経済をなんとか回しています。
ここに、日本国政府のトップ(例えば、内閣総理大臣)から「将来の日本のために、江端家にとっては不利益になるかもしれない変化を受けいれてくれないか」と言われたとしたら、私は ―― 悪いけど、私たちが死んだ後にやってくれないかな ―― と答えると思うのです。
「変化」は面倒です。なぜなら、その「変化」の内容を完全に理解して、その上で、自分の責任で判断を下さなければならないからです。私たち江端家夫婦は、つまるところ、勉強することや何かを決めることが面倒なのです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.