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未来を占う人工知能 〜人類が生み出した至宝の測定ツールOver the AI ―― AIの向こう側に(19)(4/11 ページ)

» 2018年01月31日 11時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]

「標準偏差」が必要な理由

 さて、ここで、冒頭の私の母親の話に戻りますが、私の母親は、「平均値」という概念すら無視して子どもを外に放り出すほど、数字に対する理解が欠如していたのですが、少なくとも、皆さんが、自分の子どもの点数を理解したいと考えるのであれば、クラスの平均点では足りないのです。

 上記のテスト1、テスト2は、ともに平均点が54点になるテストですが、テスト1は、点数の平均のバラツキ(標準偏差)が3.38点ですが、テスト2では12.1点もあります。

 この2つのテストにおいて、「60点」を取るのが、どちらが難しかと言われれば、「テスト1」に決まっています。しかし、これは平均点だけでは分からないことですが、ここに標準偏差を利用した偏差値を使えば、その評価は数値としてクリアになります(テスト1では58.7だが、テスト2では54.9)。

 同じように、同じ「50点」であっても、その意味が全く違ってくることも明らかです(テスト1では41.3だが、テスト2では46.7)。

 つまり、私の母は、(1)私のテストの点、(2)私のクラスの平均点、(3)私のクラスの標準偏差を調べて、その上で偏差値の計算(((1)の点数 - (2)の点数)/(3)の値 + 50)をしてから初めて、子どもを家の外にたたき出すかどうかを決定すべきだったのです。

 上記の計算によって導かれた偏差値の結果として、(1)もしクラスに100人いたら、私は大体何位くらいになっていたか、そしてその時、(2)私の母親はどうアクションすべきであったか(仮説)を示しておきます。

偏差値 (1)100人中の順位 (2)アクションの一例
40以下 84位〜97位 激怒して、私を玄関の外にたたき出して、私の奮起を期待する(立派な虐待ですが)
30以下 98位〜100位 のんきに激怒している場合ではない。私は、進級がレッドカードの状態。具体的な方策(勉強を手伝うとか、塾に行かせるとか)を、即時に着手しなければならない
20以下 ランク外 「成績が全てではない」と腹をくくり、私と一緒に、転校先の学校や、別の進路を模索する

 少なくとも、クラス最高得点であった子ども(私)を、玄関の外にたたき出すアクションは、あり得ないでしょう。

 もしあなたが、お子さんの成績に危機感を持っているなら、担任の先生に電話して、標準偏差を聞き出しましょう。

 ちなみに「標準偏差? 何ですか、それ?」と答えるような教師だったら、電話を校長に代わってもらって、その教師を即刻解雇させるよう働きかけてください。わが国には、そんな無能な教師はいりません(もし校長も知らなかったのであれば、掲示板で、そのことを世間に暴露しても許されるレベルです)。

「偏差値」が真価を発揮するのは?

 標準偏差のすごさ、偏差値の便利さは、これだけにとどまりません。

 本当にすごくて便利なことは、受験生は過激な競争を予測で回避し、受験生の家族は受験費用を最小に抑えることができます。大学は、ほぼ同レベルの学力を有する学生を確保できることで、高品質で安定した教育の提供を可能となります*)

*)微分方程式を1分足らずで一般式に展開できる学生と、分数の割り算すら満足にできない学生(ググッてみてください)を、同じゼミで教えなければならない、教授や教諭たちの苦悩を考えてみてください。

 偏差値のすごい点は、時間的にも普遍性を持っている点です。

 例えば「○○大学出身」はブランド価値になるものですが、その大学が将来もブランド力を維持しているかは分かりません。また、近年の劇的な少子化によって大学の入学ボーダーの偏差値は下方修正されることもあり得ます。

 しかし、「入試ボーダーが偏差値60の学校」という言い方は、その大学の入学の難しさを語るにおいて100年後であっても同じように使えます

 もちろん、母集団(予備校や模試の受験者)の性質には依存しますが、その時代の教育水準や環境によって母集団の傾向が変動したとしても、その母集団の1人にとって、その学校に入学することの難しさは、絶対的かつ普遍的に「偏差値60の難しさ」なのです。

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