発明者(インベンター)がイノベーターになれるとは限らない。また、必ずしもイノベーターが相応の利益を得られるとは限らない。ドライエッチング技術史をひもといてみると、まさに、そのパイオニアが報われていない実態が明らかになる。本稿では、まず、ドライエッチングに関する特許の“強弱”を判定する。その結果から、日電バリアンがイノベーターになれなかった原因を論じる。さらに、RIEを普及させたIBMが、なぜ、相応の利益を享受できないのかを考察する。
発明者(インベンター)がイノベーターになれるとは限らない。また、必ずしもイノベーターが相応の利益を得られるとは限らない。ドライエッチング技術史をひもといてみると、まさに、そのパイオニアが報われていない実態が明らかになる。
1973年に世界で初めて反応性イオンエッチングを発明した日電バリアンは、この技術を「リアクティブ・イオン・スパッタリング(RIS)」と呼んだ。その2年後の1975年にIBMが、同じ概念の技術を「リアクティブ・イオン・エッチング(RIE)」と呼び、怒涛(どとう)の勢いで特許を出願し、論文発表を行った。そのため、日電バリアンの業績は忘れ去られ、半導体業界には“RIE”の呼称が定着した。
つまり、インベンターの日電バリアンはイノベーターになれなかった。そして、“RIE”を普及させたIBMも、2017年に107億米ドル超となったドライエッチング装置市場からは、何ら利益を得ていない。
現在、その利益を享受しているのは、世界シェア1位の米Lam Research(51.4%)、2位の東京エレクトロン(25%)、3位の米Applied Materials(20.2%)などの装置メーカーである(図1)
本稿では、まず、ドライエッチングに関する特許の“強弱”を判定する。その結果から、日電バリアンがイノベーターになれなかった原因を論じる。さらに、RIEを普及させたIBMが、なぜ、相応の利益を享受できないのかを考察する。
ドライエッチング技術史では、最初はバレル型装置を用いてプラズマエッチングが発明され、次に平行平板型装置で反応性イオンエッチング、すなわち(IBMの言うところの)RIEが発明された。
これらの特許(一部は論文)について、権利範囲の広さ、実際に使われたか否か、他の特許に与えた影響などを考慮して、“強いか弱いか”を判定してみよう。
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