本シリーズ最終回となる今回は、量子井戸半導体レーザーについて解説する。試作したレーザーのテスト結果の他、課題などを紹介する。
今回は前後編の後編である。前編を覚えておられない方や未読の方は、一度、前編を読まれてから、本編をお読みすることを強くおすすめする。
前編では、化合物半導体レーザーをシリコンダイ(シリコン基板)にモノリシック集積することがなぜ難しいかを解説するとともに、シリコン基板に化合物半導体の高品質な結晶を成長させる手法である「アスペクト比トラッピング(Aspect Ratio Trapping)」を説明した。またアスペクト比トラッピングを利用した量子井戸半導体レーザーの試作例を述べた。
前編の最後に述べた量子井戸半導体レーザーを、もう少し詳しく説明しよう。シリコン基板に「アスペクト比トラッピング」を利用して欠陥の少ないガリウム・ヒ素(GaAs)層をバッファ層として成長させ、その上に活性層(発光層)となるインジウム・ガリウム・ヒ素(InGaAs)/GaAs量子井戸構造を形成していると述べた。
この半導体レーザーは、GaAsの光導波路に回折格子(グレーティング)を形成することで、分布帰還(DFB:Distributed FeedBack)型レーザーとなっている。横方向の構造は以下のようになる。一方の端面付近が回折格子のフルミラー(全反射鏡)であり、中央に四分の一波長(λ/4)位相シフト構造があり、そしてもう一方の端面にはハーフミラーの回折格子があり、さらにその先には、光を垂直方向に折り曲げる回折格子型光結合器がある。
このDFBレーザーは、半導体レーザーとしてはまだ完成していない。理由は、電流注入によるレーザー発振をしていないからだ。その手前の段階である、光パルスの照射によって発振を励起する実験がなされている。励起用光パルスの波長は532nm、光パルスの時間幅は7ナノ秒、光パルスの周波数は1kHzである。
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