次に「自動運転」についてである。
実現するための技術的なハードルは高いが、路線バスの無人運転から実用化が始まり、やがてはタクシーの無人運転、といった段階を経て普及が進むと筆者は考えている。一般車の無人運転が実現するのはかなり先の話になるだろう。この場合、自動運転のユーザーはバス会社、タクシー会社などに特定されるため、スマート農業と同様にサービスを有料化しやすい事例だと言える。
「人口の流出を何とか食い止めたい」という悩みを抱える自治体関係者によれば、地域における路線バスの運行を維持できるかどうかは極めて重要な問題であり、「バスが走っている」という事実が住民を安心させる効果があるという。赤字を理由に運行を辞めてしまうと、住民の不安が増える、過疎化に拍車がかかる、という悪循環になりかねないのが実情のようだ。現状では路線バスを運行させるためには交代要員を含めた複数の運転手が不可欠だ。そこに、運転手不要のバスを運行できるとなれば、バス会社の負担を大幅に削減できる。逆に運行路線を増やしても、運転手を増やす必要がないので、移動手段をより充実させることも可能なのだ。
そして「遠隔医療」についてだ。
過疎地においては医療施設の不足も問題視されている。遠隔診断や治療が可能になれば、この問題も大きく改善される。遠隔医療についてもユーザーを医療施設関係に特定できるので、スマート農業や自動運転と同様、サービスを有料化しやすい。
例えばNTTドコモは、NTT東日本関東病院と共同で、5Gを応用した次世代移動診療車の具体的な実証を行っている。移動診療車の総合診療科ドクターと病院の産婦人科ドクターがテレビ会議を介してリアルタイムにコミュニケーションしながら移動診療車に搭載された各種医療機器を用いて遠隔妊婦健診することを想定した実証である。5Gに対応する移動診療車を模擬したスペースに4Dエコー、4Kカメラ、乾式臨床化学分析装置、ベッドサイドモニターなどの医療機器を、総合病院の診察室に医用画像管理システムPACS(Picture Archiving and Communication System)をそれぞれ配置。さらに双方を接続する4Kテレビ会議システムを設置した上で、4Dエコー、4K接写カメラの各診断映像と4Kテレビ会議映像を、移動診療車と総合病院間で実際に5Gおよび光ファイバーを介して一括してリアルタイム伝送する、という内容である。将来的には、遠隔診療中に病院へ送られPACSに記録された診断映像をスマホやタブレットなどへ転送して表示することも可能であり、家族が胎児の元気な様子をリアルタイムに確認するなどの応用も考えられるという。
このように、IoTの活用は特定のユーザーに具体的なサービスを提供することを前提とする事例が多く考えられ、実現のためにどれだけの時間とコストが必要なのか、どれだけの効果を期待できるのか、といった想定や予測をある程度の精度で行うことが可能である。しかも人手不足や過疎化に悩む多くの地方自治体にとって、問題解決の有効手段となり得る事例が多いことが特徴と言えよう。前回にも主張させていただいたが、これからは地方自治体の方々とこのような議論を積極的に行うことを、令和元年における自身の抱負として、地域の活性化に可能な限り貢献させていただく所存である。
慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。
1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。
2010年にアイサプライ(現IHS Markit Technology)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。
2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。
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