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TSMCとSamsungのEUV争奪戦の行方 〜“逆転劇”はあり得るか?湯之上隆のナノフォーカス(33)(2/5 ページ)

» 2020年12月10日 11時30分 公開

TSMCの先端プロセスを巡るファブレスの争奪戦

 図4に、TSMCのテクノロジーノードごとの四半期出荷額の割合を示す。2020年第3四半期に、5nmの割合が8%となった。同時期に7nmは35%となり、5nmと7nmの合計が43%を占めている。今後、5nmの割合が急速に増大すると思われるため、2021年には5nmと7nmの合計がTSMCの出荷額の過半を超えると推測される。

図4:TSMCの微細化の状況(〜2020年Q3) 出典:TSMCの決算報告書を基に筆者作成(クリックで拡大)

 7nmには、EUVを使わない「N7」と孔系にEUVを使う「N7+」が混在しており、その割合は分からないが、それにしても配線にEUVを使う5nmとN7+の出荷額が予想以上の速度で急拡大している。

 このTSMCの最先端プロセスを巡って、先端ファブレスがキャパシティ獲得のための争奪戦を行っている(図5)。Appleを筆頭に、Qualcomm、NVIDIA、AMD、Xilinx、Broadcom、MediaTek、Google、Amazonなどがひしめき合っており、ここにIntelが加わる可能性が高い。

図5:TSMCの先端プロセスをめぐるファブレスの争奪戦(クリックで拡大)

 2020年9月15日以降、米商務省による輸出規制強化により、TSMCの出荷額の約15%を占めていた中国Huawei向けの半導体を出荷できなくなったが、その影響はほとんどなく、それどころか今後、最先端プロセスのキャパシティは不足すると思われる。

 特に、TSMCの最先端プロセスはEUVに依存するところが大きく、その台数を十分に確保できない場合は、ファブレスの生産委託に応えることができなくなる。では、TSMCは、2021年以降、どのくらいの台数のEUVを必要としているのだろうか?

TSMCが必要とするEUV台数

 TSMCの微細化および量産について分かっていることは、2019年に孔系にEUVを使うN7+の量産が立ち上がり、ことし2020年は配線にEUVを使う5nmの量産が本格化し、3nmの装置および材料選定が完了して2021年からリスク生産が始まり、2022年に本格量産を行う計画であり、さらに現在は2024年に量産を開始する予定の2nmの装置や材料選定を行っているということである。

 分からないのは、現在のN7+の月産キャパシティ、5nm、3nm、2nmの最終的な月産キャパシティおよび、それらのテクノロジーノードのEUVレイヤー数である。加えて、量産現場におけるEUVのスループット(1時間当たりのウエハ処理枚数)と稼働率も、正確には分からない。

 そこで、TSMCが必要とするEUV台数を算出するために、2020年のVLSIシンポジウムにおけるASMLやimecの発表などを参考に、「エイヤ!」と以下を仮定してみた。

1. 各プロセスノードの本格量産時の月産キャパシティを170〜190K(K=千枚)とした
2. 各プロセスノードの立ち上げには、パイロット試作、リスク生産、本格量産の3段階で、必要な台数のEUVを導入することとした
3. 本格量産は、フェーズIとフェーズIIの2段階に分けて行われるとした
4. EUVのレイヤー数は、N7+が5枚、5nmが15枚、3nmが32枚、2nmが45枚とした
5. EUVの平均スループットを80〜90枚/時間、ダウンタイムを含めた平均稼働率を70〜90%とし、それぞれ、少しずつ向上していくとした

 上記の仮定の下、2020年〜2023年において、TSMCが1年間に導入する(したい)EUV台数、合計のEUV台数を算出した(図6)。

図6:TSMCのEUV必要台数の試算(クリックで拡大)

 まず、5nmの量産が本格化し、3nmのパイロット試作が始まった2020年に、新たに必要なEUVは35台と計算された。この試算結果は、図3の実績値とほぼ同じとなった。

 2021年には、5nmの量産規模が拡大し、3nmのリスク生産が始まる。そのために新たに必要なEUVは54台と計算された。続いて、3nmの本格量産が始まり、2nmのパイロット試作が始まる2022年には、新たに必要なEUVは57台と計算された。さらに、3nmの量産規模が拡大され、2nmのリスク生産が開始される2023年には、新たに必要なEUVは58台と計算された。そして、2nmの本格量産が始まる2024年と、その量産規模が拡大する2025年に、新たに必要なEUVはそれぞれ62台と計算された。

 (かなり不確かかもしれない)仮定の下で導き出された結論は、TSMCは、2021年〜2015年の5年間の合計で292台を必要とするということである。1年間の平均では、58台ということになる。このようにTSMCが2021年以降、毎年平均で60台弱のEUVを必要とした場合、果たして、ASMLはその要求に応えることができるのだろうか?

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