2020年12月1日付のBusiness Koreaは、11月末にASMLのPeter Wennink CEOなどの幹部がSamsungを訪問したと報じた。その訪問による会議で、Samsungがより多くのEUV導入を要求し、さらに次世代のHigh NA(NA=0.55)のEUVの協力関係について話し合いが行われたという。
High NAの次世代EUVは、価格5000億ウォン(約480億円)で、現在のNA=0.33のEUVの2〜3倍もする。そのHigh NAのプロトタイプのEUVを、Samsungが2023年半ばに導入する計画であり、EUVの台数で差をつけられているTSMCに次世代EUVの技術で対抗する戦略である。
さらに、有識者からの情報によれば、10月13日のASMLの訪問で李在鎔副会長が要求した「2020年中に9台のEUV」については、少なくとも4台が2020年中にSamsungに導入され、残り5台も2021年初旬に入る見通しであるという。加えて、2021年以降、「毎年20台のEUV」を導入することも、満額回答になるかどうかは分からないが、それに近い台数のEUVが導入されるらしい。
ここまでをまとめると、TSMCは、2020年末に61台のEUVを確保し、2021年以降の5年間は、毎年平均58台のEUVを必要としていると計算された。一方、Samsungは、2020年末から2021年初旬にかけて9台のEUVを確保し、その後は毎年20台の導入を要求しているとみられる。従って、2021年以降、TSMCとSamsungの2社合計で約80台のEUVを要求すると推察(計算)される。
Samsungの要求通り、TSMCについては筆者の計算通りにEUVが導入されれば、2025年末には、Samsungが119台、TSMCが353台を保有していることになる(図10)。加えて、Samsungには、TSMCよりも早く、High NAのプロトタイプが数台導入されているかもしれない。
問題は、ASMLが毎年約80台ものEUVを生産し、供給できるかということである。以下では、ASMLが過去に発表した投資家向けの資料を基に、その可能性を論じたい。
図11は、2016年10月31日の“Investor Day”でに、ASMLが投資家向けに発表したスライドの抜粋である。EUVは、ASMLがCabinと呼ぶクリーンルームで生産される。一つのCabinで1台のEUVが生産されるので、EUVを大量生産するためには、Cabinを増やさなければならない。
図11によれば、2014年に15のCabinがあり、2015年には10 Cabin増えて25 Cabinになったと読める。その後は、必要に応じて、Cabin数を増やしていく計画であることが分かる。そして、有識者からの情報によれば、2020年には35 CabinをASMLが有しているという。
次の問題は、一つのCabinで1台のEUVを組み立てるのに何カ月かかるかということになる。2016年時点では、1台のEUVを生産するのに12カ月以上かかっていたと思われる。というのは、図2に示したように、ASMLのEUV出荷台数は、2016年に5台、2017年に10台、2018年に18台しかなかったからだ。
ASMLは2019年に26台を出荷しているが、25 Cabinそれぞれで1年かけて1台のEUVを生産したと推測できる。そして、2020年に36台出荷できたのは、35 Cabinそれぞれで1年かけて1台のEUVを生産したからだと言えるかもしれない(図12)。
それでは、2021年以降、TSMCとSamsungの2社合計で70〜80台のEUVの要求に応えるためには、ASMLはどうしたらいいのだろうか? 現在、35あるCabinを、いきなり80に増やすのは無理だろう。ならば、1台のEUVの組み立ての期間を短縮するしかない。
2019年までは、1台組み立てるのに12カ月を要していたと思われる。しかし、2020年はSamsungの副会長の電撃訪問後、4台追加されたため、合計40台が出荷されることになる。つまり、1台当たりの工期が12カ月から10カ月に短縮されつつあると考えられる。
もし、35 Cabinで、工期が10カ月なら42台生産できる。工期が8カ月なら52台、6カ月なら70台のEUVが生産できることになる。この工期短縮に最も影響が大きい部品が、Carl Zeissが製造するEUV用の巨大な反射ミラーであるという。関係者からの情報では、少しずつCarl Zeissのミラーの生産効率が上がっており、EUV生産の工期は短縮されつつある模様だ。つまり、EUVを年間70台出荷することも、不可能ではなくなってきているようだ。
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