先端ファブレスがキャパシティの争奪戦を行っているTSMCに対して、Samsungのファウンドリーは、現状では劣勢に立たされている。TrendForceが10月5日に発表したFoundryのマーケットシェア予測では、TSMCが55%であるのに対して、Samsungはその約30%の16%だった(図7)。
また、12インチウエハー換算の月産キャパシティで、TSMCが120万枚超あるのに対して、Samsungは20万枚程度と思われる。しかも、EUVを使う7nmや5nmの量産に成功したと発表してはいるが、その規模が分からない。本当に大規模量産を行っているかどうかも疑問である。
TSMCは、孔系にEUVを使うために2018年の1年間、7〜8台のEUVに毎月6〜8万枚のウエハーを露光してトレーニングを行ったと聞いている。毎月最大8万枚とすると12カ月で96万枚ものウエハーの露光を行い、廃棄処分にした上で、やっと2019年にN7+に量産適用できた。つまり、未熟な露光装置のEUVを使いこなすには、ウエハー100万枚弱の練習が必要なのである。
これに対して、Samsungは、EUVのトレーニングをどのようにして行っているのだろうか? 複数の関係者からの情報によれば、月産約50万枚の規模を誇る巨大なDRAMラインを月産数千枚〜最大1万枚ほど間借りして、EUVの練習を行っているという。
実際、Samsungが最先端のDRAMにEUVを適用しているという報道が多数あり、Samsung自身も2020年5月20日のニュースリリースで、「EUVで製造した第4世代の10nmクラスDRAMの出荷個数が100万個に達した」と発表している。
しかし、これを真に受けるわけにはいかない。現在、DRAMは12インチウエハー1枚に1500個くらい同時に製造される。従って、そのウエハー枚数は100万個÷1500個/枚=667枚となる。歩留り80%と仮定すると、その枚数は、100万個÷(1500個/枚×80%)=833枚になる。つまり、100万個のDRAMは、月産約50万枚もの巨大なDRAMラインで、千枚にも満たない規模なのである。従って、Samsungが「EUVを使って製造したDRAMを出荷した」ことは間違ってはいないが、業界の常識に照らし合わせると、「EUVをDRAMの量産に適用した」とはとてもいえない。
Samsungは、2019年に「Vision2030」を発表し、2030年までに133兆ウォン(約12.4兆円)もの巨額資金を投じ、修士や博士など専門の人材1.5万人を採用し、TSMCを追い抜いて、ファウンドリーのリーダーになる目標を立てた(図8)。
また、前述した通り、Samsungの李在鎔副会長は2020年10月13日、ASMLを電撃訪問し、同社CEOのPeter Wennink氏およびCTOのMartin van den Brink氏らに、「2020年中にEUVを9台、2021年以降、毎年20台を導入したい」と直訴した模様である。
しかし、いくら巨額資金を投入し、Samsungの実質的なトップが直訴しても、TSMCの要求で手いっぱいのASMLがSamsungにEUVを回す余裕などないと筆者は思った。
実際のところ、Samsungのファウンドリーが生産している最先端のロジック半導体は、自社の新型スマートフォン「Galaxy」用アプリケーションプロセッサとIBMのスーパーコンピュータ用チップ程度しか見当たらない(図9)。NVIDIAやQualcommは、SamsungがEUVを使って量産する7nmや5nmの歩留まりが悪いためか、生産委託先をTSMCに変更してしまった(ただし、大幅な値引きを行ったため、Qualcommの再委託に成功した)。
このように、EUVの台数や成熟度でも、ファウンドリーのシェアでも、SamsungとTSMCとの差は開く一方であり、133兆ウォンの投資や1.5万人を採用する「Vision2030」計画は頓挫する――と思っていた矢先、事態が急変したのである。
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