これらを解決するため、富士通研究所は今回、2つの技術を開発した。マスクを着用した顔でも絞り込みができるデータ拡張学習技術と、手のひらをかざす位置を光の色で示す光ユーザーインタフェースだ。
データ拡張学習技術は、顔全体を撮影して特徴点を抽出し、そこにさまざまな種類のマスク画像を付加したものを使って学習させるというもの。従来技術では、マスクで隠れていない目の領域の特徴量を抽出して判別するしかないため、本人を認識する精度が下がってしまう。“マスクをした画像”も学習させておくことで、マスクを含めた“顔全体”の特徴量を抽出できることになり、認識の精度向上につながる。
富士通研究所 デジタル革新コア・ユニット 認証・決済プロジェクトでプロジェクトマネジャーを務める安部登樹氏によれば、「マスク着用での認証において、これまで数パーセントの割合で失敗していたが、新技術を適用することでその割合を1%以下まで抑えることができるようになった」と説明する。
光ユーザーインタフェースでは、手をかざす位置(高さ)によって色を変化させる。センサーに近すぎるなら赤く光り、適切な高さなら緑といった具合だ。信号と同じ色味で光るので、「赤」ならまだNG、「緑」ならOKというのを直感的に分かるようにした。
今回新しく開発した技術は、2021年1月21日からローソン富士通新川崎TS レジレス店に適用されている。富士通は実証実験を進めて、2021年度中の実用化を目指すとしている。
なお、実用化の際、「生体情報をクラウドに保存し、それも含めたサービスを富士通が提供することになるのか」という質問に対し、富士通研究所のフェローでデジタル革新コア・ユニットのユニット長を務める増本大器氏は、ビジネス面については研究所の立場からは言及しにくいとしつつ、「クラウドを使用するケースもあるだろうし、生体情報も含めたデータを自社で収集したいという企業であれば、オンプレミスで使用する場合もあるだろう」と述べた。「われわれは、手のひら静脈画像から、特徴データを2048ビットのコードとして抽出する『バイオコード技術』も開発している。そういったセキュリティ面も含めて、マルチ生体認証を下支えしたい」(同氏)
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