半導体サプライチェーンは過去30年以上にわたって、(生産能力を)地理的に特化させることで、大規模なイノベーションや生産性向上、コスト削減などを実現してきた。今後最も重要な課題となるのが、このような既存のグローバル化された半導体サプライチェーン構造をどのように克服すべきかという点である。SIAはこれについて、2021年4月初めにBoston Consulting Group(BCG)と共同発表したレポートの中で取り上げている。
そのレポートによると、代替仮説として、各地域において完全に自給可能なローカルサプライチェーンを実現する場合、少なくとも1兆米ドルの漸進的な先行投資を行う必要があるという。それに伴い半導体価格が全体的に35〜65%上昇し、最終的には消費者向け電子機器の価格も上昇するとされている。
この点については、今回の会談後に、何人かの経営幹部たちも指摘している。例えば、ON Semiconductorのシニアバイスプレジデントを務めるDavid Somo氏は、Reuters(ロイター通信)のインタビューに応じ、「特定の1つの場所で、最初から最後までサプライチェーン全体を再構築するという取り組みは不可能だ。膨大なコストが生じることになるだろう」と述べている。
さらに、Silicon LabsのCEOであるTyson Tuttle氏もReutersのインタビューの中で、「最先端技術向けの生産能力を構築しさえすればよいというわけではない。米国は、最先端の新工場だけでなく、古い技術もサポートする必要がある。深刻な不足が生じているのは、成熟した半導体チップだ。半導体業界では、最先端技術にばかり資金が流れるという、資金提供のミスマッチが発生している」と述べる。
SIAとBCGの53ページに及ぶレポート「Strengthening the Global Semiconductor Supply Chain in an Uncertain Era(不確実な時代における世界半導体サプライチェーンの強化)」の中で、重要な調査結果の1つとして挙げられているのが、地理的な特化によって、世界半導体サプライチェーンの脆弱性が生み出されたという点だ。
例えば、バリューチェーンの中には、1つの地域だけで世界市場シェア全体の65%超を占めている場所が、50カ所以上存在する。これらが潜在的な単一障害点となり、自然災害や、インフラの停止、国際紛争などによって混乱を引き起こす可能性があるだけでなく、重要な半導体チップの供給において深刻な妨げとなる可能性もある。例えば、世界半導体製造能力全体の約75%が集中している中国と東アジアは、地震活動が活発な上に、地政学的緊張も高い地域だ。
さらに現在、10nmプロセス以降の半導体製造能力100%のうち、92%が台湾に、8%が韓国にそれぞれ存在する。これらの最先端チップは、米国の経済や国家安全保障、インフラにとって非常に重要だ。極端な仮説シナリオとして、台湾のファウンドリーが1年間にわたって完全な混乱状況に陥った場合、世界のエレクトロニクスサプライチェーンが停止し、全世界に経済的な大混乱が生じることになる。もしこの仮説のような完全な混乱状態が永続するとなると、台湾のファウンドリーに代わる十分な生産能力を、世界のその他の地域で構築するためには、少なくとも3年間にわたって3500億米ドルの投資を行う必要がある。
SIAとBCGは、「世界半導体サプライチェーンにおけるこのような脆弱性に対応し、長期的な強さと回復力を確保していくためには、政府措置が必要だ」と主張する。米国政府は、世界半導体供給が大規模な混乱に陥るという危険性を低減するためには、市場主導のインセンティブプログラムを実行することによって、地理的拠点をもっと分散化する必要がある。こうしたインセンティブは、米国の半導体製造能力の向上と、一部の重要材料の供給拡大を目的とすべきだ。例えば米国は、このようなインセンティブによって製造能力を強化することにより、国防や航空宇宙、重要インフラなどで使われる高性能論理チップの国内需要に対応できるようになる。
【翻訳:青山麻由子、田中留美、編集:EE Times Japan】
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