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市場急拡大の反動、「メモリ大不況」はいつやってくる?湯之上隆のナノフォーカス(42)(6/6 ページ)

» 2021年09月28日 11時30分 公開
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メモリ市場の急拡大はいつまで続く?

 四半期ごとの種類別の半導体出荷額において、2020年Q4から2021年Q2にかけて、メモリ市場が急拡大していた。この主たる原因は、NANDではなく、DRAMにあることを論じた。そのDRAMでは、出荷個数が四半期では過去最高の55億個超になるとともに、主力となる8GのContract価格が1.44倍に高騰していることから、DRAMの出荷額が1.57倍の235.3億米ドルに増大した。

 また、レガシーなDRAMのSpot価格もContract価格も、2倍以上に高騰していることが分かった。レガシーなDRAMは絶対数が少ない上に、コロナ禍の巣ごもり需要で各種家電品の需要が拡大したために価格が高騰したと分析した。

 DRAM市場、ひいてはメモリ市場の急拡大はいつまで続くのだろうか? それは、MPU次第ということになるかもしれない(図17)。2016年にIntelが10nmプロセスの立ち上げに失敗した。その後、Intelは14nmを延命することになったが、MPUの性能を向上させるためにコア数を増大させ、そのためにチップ面積が大きくなり、1枚のウエハーから取得できるチップ数が減少した。

図17:四半期ごとのMPU、DRAM、NANDの出荷個数[クリックで拡大] 出所:WSTSのデータを基に筆者作成

 その結果、2016年Q3に世界で1.36億出荷されていたMPUは、2019年Q1に4800万個少ない8800万個まで減少した。このように世界的にMPUが足りなくなったため、PCやサーバ目当てで生産されたDRAMやNANDが市場に溢れかえり、価格暴落を引き起こし、半導体不況を招いてしまったと推測している(拙著記事「インテル、困ってる? 〜プロセッサの供給不足は、いつ解消されるのか?」)。

 そのMPUは、2021年Q2に1.2億個を出荷している。まだ2016年Q3のピーク時には少し足りないが、順調に出荷個数が増えてきている。Intelが10nmの量産にメドをつけたのかもしれない。または、AMDが生産委託しているTSMCで、MPUの生産量が上がってきたのかもしれない。

 いずれにせよ、MPUの出荷個数が増大している現時点では、メモリ価格が大暴落することは無いだろう。ただしIntelが新たに米国アリゾナ州に建設する半導体工場が立ち上がる2024年頃に、MPUが供給過剰になる可能性がある。

 ここで図1に戻るのだが、各国ならびに各半導体メーカーにおいては、ハーメルンの笛吹きに踊らされないで頂きたい。自社できちんとマーケティングを行い、冷静にかつ計画的に半導体を生産して頂きたい。くれぐれも、不毛な競争は行わないで欲しいと思う。

(次回に続く)

⇒連載「湯之上隆のナノフォーカス」記事一覧


筆者プロフィール

湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長

1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。


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