7nm以降の技術ノードでは、「設計・製造協調最適化(DTCO)」だけでなく、「システム・製造協調最適化(STCO:System Technology Co-Optimization)」も利用することでPPAあるいはPPACのバランスを調整することが求められるようになってきた。
半導体のデバイス技術とプロセス技術に関する世界最大の国際学会「IEDM(International Electron Devices Meeting)」は、「チュートリアル(Tutorials)」と呼ぶ技術講座を本会議(技術講演会)とは別に、プレイベントとして開催してきた。2020年12月に開催されたIEDM(Covid-19の世界的な流行によってバーチャルイベントとして開催)、通称「IEDM2020」では、合計で6本のチュートリアル講演が実施された。その中で「Innovative technology elements to enable CMOS scaling in 3nm and beyond - device architectures, parasitics and materials(CMOSを3nm以下に微細化する要素技術-デバイスアーキテクチャと寄生素子、材料)」が非常に興味深かった。講演者は研究開発機関のimecでTechnology Solutions and Enablement担当バイスプレジデントをつとめるMyung‐Hee Na氏である。
そこで本講座の概要を本コラムの第298回から、シリーズでお届けしている。なお講演の内容だけでは説明が不十分なところがあるので、本シリーズでは読者の理解を助けるために、講演の内容を適宜、補足している。あらかじめご了承されたい。
本シリーズの前回(第28回)から、6番目(最後)のパートである「設計・製造協調最適化(DTCO)からシステム・製造協調最適化(STCO)へ」の講演概要を紹介している。前回ではデバイスの3次元化により、22nm/16nm世代からは「設計・製造協調最適化(DTCO:Design Technology Co-Optimization)」技術が導入されるようになったことを述べた。FinFETの採用によって加工寸法の微細化だけでなく、基本セル(スタンダードセル)を縮小する要素技術によってトランジスタ密度を従来と同様の比率で高める。このとき、設計ルールとプロセス条件の両方から、「消費電力と性能、シリコン面積(PPA:Power、Performance、Area)」を要求仕様に準じてレイアウト設計の段階で最適化する手法としてDTCOを駆使するようになった。
しかし7nm以降の技術ノードでは、DTCOだけでは最適化が難しくなりつつある。その理由は主に2つ。1つは要素技術の増加と複雑化、もう1つはチップレット化(2.5次元/3次元の集積化)である。基本セル(スタンダードセル)のレイアウト設計を最適化するDTCOに加え、大規模な回路ブロックやサブシステムなどでの最適化手法「システム・製造協調最適化(STCO:System Technology Co-Optimization)」を利用することによってPPAあるいはPPAC(CはCost)のバランスを調整することが求められるようになってきた。
前回でも述べたように、CMOSロジックを構成する階層(トランジスタ材料、トランジスタ技術、相互接続技術、回路ブロック/サブシステム)の全てで、新たな要素技術が今後は使われていく可能性が高い。これらの要素技術はお互いに影響し合う。
要素技術が複雑に絡み合う状態で、CMOSロジックの消費電力(Power)と性能(Performance)を素早くかつ正確に見積もりたい。最も精度が高いのは、マスクレイアウト設計において回路ブロックの配置配線(PnR:Placement and Routing)を完了してから、消費電力と性能を推定することだろう。ただし配置配線を完了させるには相当な時間を要する。そして最適な条件を出すためには通常、配置配線を何回か繰り返すことが求められる。
最も素早く見積もれるのは、小規模なモニター回路の利用だろう。標準なモニター回路は、リング発振器(RO:Ring Oscillator)である。ROは奇数段のインバータ論理による閉回路(ループ状の回路)で構成されており、シミュレーションによって短時間で消費電力(動作時および待機時)と動作周波数(伝搬遅延時間)を見積もれる。ただし、回路ブロック全体の消費電力と動作周波数を推定したときの精度は高くない。
このため、短時間かつ高精度で回路ブロックの消費電力と性能(動作周波数)を推定可能な手法が望まれる。
(後編に続く)
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