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電磁波で電力を伝送するという夢の始まり(後編)福田昭のデバイス通信(351) imecが語るワイヤレス電力伝送技術(5)(2/2 ページ)

» 2022年03月16日 11時30分 公開
[福田昭EE Times Japan]
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電磁波による送電と通信、放送を構想した「栄光なき天才」テスラ

 電磁波による通信にとどまらず、電力伝送(送電)と放送を構想したのがオーストリア(クロアチア)生まれのセルビア人、ニコラ・テスラ(Nikola Tesla, 1856年7月10日生〜1943年1月7日没)である。テスラは1884年に米国に渡ると、1900年に電磁波による送電技術の米国特許を取得する。

 財政的な支援者(スポンサー)を得たテスラは1905年にワイヤレスの通信と送電、放送の実験を目的とした送信塔「ウォーデンクリフ・タワー」を米国ニューヨーク州ロングアイランドに建設した。しかし「ウォーデンクリフ・タワー」による送電実験は失敗に終わり、スポンサーは撤退する。

テスラの肖像(左)とワイヤレス電力伝送の特許に描かれた送受信器(中央)、実験中の風景(右)[クリックで拡大] 出所:imecおよびEindhoven University of Technology(IEDMショートコースの講演「Practical Implementation of Wireless Power Transfer」のスライドから)

世界初のワイヤレス電力伝送実験に成功

 電磁波による電力伝送に初めて成功したのは、1931年の実験だろうとVisser氏は講演で述べていた。米国のハレル・ノーブル(Harrell V. Noble, 1907年4月14日生〜1982年10月6日没)が1931年に実験で電力を伝送してみせた。ノーブルは電機メーカーであるウエスチングハウス(Westinghouse Electric and Manufacturing Co.)の高出力真空管研究所(High Power Tube Laboratory)につとめる研究者で、後に米国空軍の電子技術に関する研究所でディレクターとなる。

 ウエスチングハウスは1933年に始まったシカゴ万国博覧会に出展し、同社のブースで電磁波による電力伝送をデモンストレーションしてみせた。Visser氏が業界団体WPC(Wireless Power Consortium)で講演したときのスライドには、送信出力が1.5kW、送信周波数が100MHz、送信アンテナは半波長ダイポール、伝送距離は5〜10mとある。

ノーブルの肖像(左)とワイヤレス電力伝送の実験デモンストレーション(右)。受信用のアンテナに電球を取り付けて電球を光らせた[クリックで拡大] 出所:imecおよびEindhoven University of Technology(IEDMショートコースの講演「Practical Implementation of Wireless Power Transfer」のスライドから)

 しかしその後、電磁波を使った電力伝送技術の研究は急速に下火となる。30年後の1960年代まで、目立った研究成果を待たなければならない。

(次回に続く)

⇒「福田昭のデバイス通信」連載バックナンバー一覧

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