新しい光デバイスで注目しているのがSi-photonicsと光スイッチである。
2010年ごろのブームが去ったと思われていたSi-photonicsであったが、CPOの出現によって再び火がついた。CPOではSi-photonicsが技術の中心に置かれた。また、新しいビジネスチャンスということでベンチャーなど新興会社が競争する状況になっている。
さらに、半導体産業にとって光技術が重要であるとの認識も後押しした。Mooreのスケール則の中で、ICの入出力ボトルネックが課題となり、その解決策として光技術に注目が集まった。
米国国防省のDARPA主導で光関連のプロジェクトが発足し、AIM PhotonicsやGolobalFoundriesを中心に産業界をリードしている。欧州でも半導体危機に対応する「European Chips Act(欧州半導体法)」の中で先端ICの入出力を担うSi-photonicsの製造拠点づくりが声高に議論されている。日本でも研究開発プロジェクトが推進されており、AIOcore(アイオーコア)により光インタコネクト向けSi-photonicsの実用化が進められている。
先に述べたように、息を吹き返したSi-photonicsだが、2010年ごろLuxtera(Cisco Systemsが2019年に買収)やIntelの製品化が引き起こしたブームから「大進歩」と呼べるレベルの技術的発展は感じることができない。将来の光デバイス開発として「Si-photonics 2.0」という動向を明示しても良い時期に来ているのではないか。特に、N倍化の集積化だけではpJ/bitの改善は難しく高速化が課題である。
Beyond 100Gに向けた高速大容量Si-photonicsとともに、その性能を引き出して実用化するには、実装の開発が決め手である。また、要素技術の開発も重要だが、ホスト基板への搭載方式、高速信号伝送、ファイバ接続、レーザー搭載、放熱など全てにおいて閉じた設計、材料、プロセスが実現できなければいけない。チップ、パッケージ、ホスト基板、ファイバ実装などのCo-designが望ましい。
ヘテロジニアスインテグレーション(異種統合)など、Si-photonics 2.0の新潮流やオープン化、標準化の動向も報告して行きたい。
高速大容量な光インタコネクトで柔軟な接続を追求すると光スイッチに至る。ネットワークのスイッチにおいて光-電気変換することなく交換接続できれば、レイテンシを送受信の光-電気変換部と伝送光路長だけにできる。Disaggregated SystemにおけるxPU-xPU間トポロジー切り替えや、xPU-メモリ接続のような、切り替え頻度が少ない応用でそのようなシンプルなネットワークも考えられる。
光スイッチの歴史も古く1980年代にさかのぼることができる。近年の研究開発はSi-photonicsあるいはSi-photonics+MEMS融合技術の適用であるが、電気光学効果の大きい材料を利用する技術やデバイスの研究も活発化してきている。
Si-photonics光スイッチでは、光損失(ロス)とクロストークが課題である。スイッチエレメントを縦横に集積化するが、光信号は多段のエレメントを通るため光損失(ロス)とクロストークが積算される。また、エレメント間を接続する光路が交差することもありクロストークの原因にもなる。また、初期設定時間、運用時のバイアスの随時調整方式などモニター、設定、制御などの課題も大きい。また、総電力が問題になることもある。
数年前、米Calient Technologiesの3D-MEMSを使用した320ポートスイッチ「S-320 OCS」のカタログに、「挿入損失1.5dB(typ)、クロストーク−60dB、消費電力45W」と記載されていて、驚いたことがある。また、2020年の「VLSI Symposium」でIBMが発表した、MZI(マッハツェンダー干渉計)やモニターPDなどのSi-photonicsと、D-Aコンバーター/A-Dコンバーターや制御用アナログ/デジタル回路などほぼ全ての機能を1チップに集積したNon-Block 8x8光スイッチチップは、実用化の方向を示していると言える。予稿によれば挿入損失9.7dB(worst)、クロストーク-33.5dB(worst)、消費電力は1.5W(typ)とあった。
このように、光スイッチも低消費電力の魅力があり注目度が高まっている。今後も、紹介していくので、ぜひ続報を楽しみにしていただきたいと思う。
30年以上にわたり、さまざまな光伝送デバイス・モジュールの研究開発などに携わる。光通信分野において、研究、設計、開発、製造、マーケティング、事業戦略に従事した他、事業部長やCTO(最高技術責任者)にも就任。多くの経験とスキルを積み重ねてきた。
日立製作所から米Opnext(オプネクスト)に異動。さらに、Opnextと米Oclaro(オクラロ)の買収合併により、Oclaroに移る。Opnext/Oclaro時代はシリコンバレーに駐在し、エキサイティングな毎日を楽しんだ。
さらに、その時々の日米欧中の先端企業と協働および共創で、新製品の開発や新市場の開拓を行ってきた。関連分野のさまざまな学会や標準化にも幅広く貢献。現在はコンサルタントとして活動中である。
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