今回からはワイヤレス電力伝送の歴史を振り返る。
半導体のデバイス技術とプロセス技術に関する世界最大の国際学会「IEDM(International Electron Devices Meeting)」が昨年(2021年)12月11日〜15日に米国カリフォルニア州サンフランシスコで開催された。同年12月17日以降は、インターネットを通じてオンデマンドで録画済みの講演ビデオを視聴可能になった。
IEDMは12日に「ショートコース」と呼ぶ技術講座をプレイベントとして実施した。その1つである「Emerging Technologies for Low Power Edge Computing (低消費エッジコンピューティングに向けた将来技術)」を共通テーマとする6件の講演の中で、「Practical Implementation of Wireless Power Transfer(ワイヤレス電力伝送の実用的な実装)」が極めて興味深かった。講演者はオランダimec Holst Centreでシニアリサーチャー、オランダEindhoven University of TechnologyでフルプロフェッサーをつとめるHubregt J. Visser氏である。
そこで本講演の概要を本コラムの第347回から、シリーズでお届けしている。なお講演の内容だけでは説明が不十分なところがあるので、本シリーズでは読者のご理解を助けるために、講演の内容を適宜、補足している。あらかじめご了承されたい。
前々回と前回は、ワイヤレス電力伝送の基本原理を解説するとともに、誘導型ワイヤレス電力伝送の歴史を前後編で簡単に紹介した。
今回からはワイヤレス電力伝送の歴史を振り返る。講演のアウトラインだと、「3. 放射型ワイヤレス電力伝送の歴史(黎明期)」に相当する部分になる。「電磁誘導」と「電磁波(および光)」が伝送(給電や送電、充電)の2大原理であることは既に述べた。電磁誘導と電磁波のいずれも、19世紀に電磁気に関する研究が著しい進歩を遂げる中で生まれた。
早かったのは電磁誘導現象の発見である。西暦1830年前後に3人の研究者が別々に見つけたとされる。電磁誘導の発見で最も有名なのは英国のマイケル・ファラデー(Michael Faraday、1791年9月22日生〜1867年8月25日没)だろう。いわゆる「ファラデーの電磁誘導の法則」で知られる。ほかの2人は米国のジョセフ・ヘンリー(Joseph Henry、1797年12月17日生〜1878年5月13日没)とイタリアのフランチェスコ・ザンテデスキ(Francesco Zantedeschi、1797年8月20日生〜1873年3月29日没)である。
ファラデーの電磁力に関する研究業績を発展させ、英国(スコットランド)のジェームズ・クラーク・マクスウェル(James Clerk Maxwell、1831年6月13日生〜1879年11月5日没)は1864年に電磁波の存在を理論的に予想した。その理論式は、いわゆる「マクスウェルの方程式」で知られる。マクスウェルは、電磁波の伝搬速度が光の伝搬速度と同じであることも理論的に導いていた。
1864年に理論的に存在が予想された電磁波を実験的に証明したのは、ドイツのハインリヒ・ルドルフ・ヘルツ(Heinrich Rudolf Hertz, 1857年2月22日生〜1894年1月1日没)である。ヘルツは1886年〜1888年に電磁波の伝搬に関する一連の実験を実施し、電磁波が空間(大気中)を伝わることを確認した。ヘルツはまた、難解で複雑だったマクスウェルの方程式を簡略化したことでも知られる。
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