東京工業大学らの共同研究グループは、イットリウム酸水素化物(YOxHy)のエピタキシャル薄膜を作製し、紫外光照射と加熱を行うことで「絶縁体」と「金属」の状態を繰り返し変換させることに成功した。
東京工業大学物質理工学院応用化学系の清水亮太准教授、小松遊矢大学院生(博士後期課程2年)らによる共同研究グループは2022年4月、イットリウム酸水素化物(YOxHy)のエピタキシャル薄膜を作製し、紫外光照射と加熱を行うことで「絶縁体」と「金属」の状態を繰り返し変換させることに成功したと発表した。
光センサーや光メモリは、光を受けて電気抵抗などの物性が変化する機能を利用したデバイスである。こうした光応答性を示す物質としては、既に12CaO・7Al2O3などが報告されている。しかし、光照射による「金属化」や金属状態の「長期間保持」、任意のタイミングで「再絶縁化できる」物質は、これまで存在していなかったという。
研究グループは、太陽光照射によって可逆的に着色、脱色する性質を持ちつつ、電気抵抗も可逆的に変化するイットリウム酸水素化物(YOxHy)に注目した。ただ、従来のYOxHy薄膜はガラス上に作製された多結晶体であり、減少する電気抵抗は1桁にとどまっていた。
そこで今回は、イットリア安定化ジルコニア基板を用いて、基板の温度や水素ガス分圧といった薄膜作製の条件を最適化することにより、結晶方位のそろったYOxHyエピタキシャル薄膜を作製することに成功した。
実験では、作製したエピタキシャル薄膜に太陽光を30分間照射し、電気抵抗を測定した。この結果、電気抵抗率は1.3×103Ωcm以上から1.0×100Ωcmに変化するなど、3桁以上の減少となった。従来の多結晶体に比べ光応答性は100倍も向上したという。
さらに、波長193nmの紫外レーザーを照射すると、電気抵抗率は1.7×104Ωcmから6.2×10-4Ωcmへと、7桁以上も減少することを確認した。この状態では、温度下降とともに電気抵抗が減少するため「金属状態」となっていることが分かった。薄膜の外観も黄色透明から黒色に変わった。しかも、室温下で金属状態は数日間保持されることを確認した。
絶縁体状態に変化させるための実験も行った。125℃で2時間加熱処理を行うと、電気抵抗値が急激に大きくなり、透明な絶縁体に戻った。さらに、紫外レーザーを再照射すると、再び金属化した。
研究グループは、光照射による金属化について、X線吸収微細構造測定(EXAFS)による局所構造解析や、ラザフォード後方散乱(RBS)、弾性反跳検出分析法(ERDA)、核反応分析法(NRA)による組成分析、ベータ崩壊検出核磁気共鳴法(β-NMR)による水素ダイナミクス解析などを行い、詳細な機構を調べた。
この結果、Yの面心立方格子中で、酸素は四面体サイト(Thサイト)だけに存在し、水素は残りの四面体サイトと八面体サイト(Ohサイト)に存在することが分かった。これらの結果に基づいて第一原理計算を行った。そして、八面体のH-が四面体サイトのO2-と結合してOH-を形成、余剰電子が生じて金属化することを明らかにした。
研究グループは、薄膜内水素の密度や結合、荷電状態を高度に制御すれば、光エレクトロニクスのさらなる進展が期待できるとみている。
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