東京工業大学は、電解液を送ることによって生じる流動電位を利用して、有機化合物の電解反応を駆動する手法を開発した。この技術を用いて芳香族化合物の電解重合を行い、導電性高分子を得ることに成功した。
東京工業大学物質理工学院応用化学系の稲木信介教授と岩井優大学院生(博士後期課程1年)らは2022年5月、電解液を送ることによって生じる流動電位を利用して、有機化合物の電解反応を駆動する手法を開発したと発表した。この技術を用いて芳香族化合物の電解重合を行い、導電性高分子を得ることに成功した。
ある化学物質を別の化学物質に変化させる「化学反応」の工程ではこれまで、有害な試薬などを用いてきた。近年は、クリーンで安全な「電気化学反応(電解反応)」に置き換えるための研究が進められている。ところが、現行の電解反応では、「電極に給電するための電源装置が必要」であり、「配線が煩わしい」など、導入時の課題もあった。
そこで稲木氏らは、マイクロ流路に希薄電解液を送る時に、流路の上流と下流で生じる流動電位を利用して、電解反応を駆動する技術に注目した。こうすることで、外部からの電源供給は不要になると判断した。これまで、分析機器などで数十mV程度の流動電位が用いられてきたが、電解反応に応用する研究はほとんどなかったという。
今回の研究では、「流路の材質」や「有機溶媒と電解質の組合せと濃度」などについて検討を重ね、約3Vの流動電位を発現させることに成功した。実験では、マイクロ流路の上流と下流に電極を設置。外部から電流計を接続して電解反応を検討した。原理検証のために行ったのが、芳香族化合物の電解反応による高分子合成(電解重合)である。
具体的には、原料となる「ピロール」を「アセトニトリル溶媒」に溶かし、電解質として「Bu4NPF6」を加えた溶液を調製して送った。そうすると、上流側の電極表面に、ピロールの電解重合によって生成された高分子(ポリピロール)薄膜が現れた。この現象は、上流が陽極として駆動し、ピロールの酸化反応が進行したことを示すものだという。
電解質をBu4NPF6から「LiBF4」に変えて検証した。その結果、流動電位は逆の極性を示し、下流側の電極上にポリピロール薄膜が現れた。同様に、芳香族化合物をピロールから「3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)」に変更しても、対応する導電性高分子膜が得られることを確認した。
今回の研究により、給電をしなくても電解反応を駆動できることが実証された。これにより電力が得られない極限環境などでも電解反応技術を利用することができる。ただ、現時点では高圧で送液をしなければならない。今後、より低圧で送液をしても、同様に反応を駆動できるよう、改良していくことが必要になるという。
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