東京工業大学は、無線電力伝送と無線通信に同時対応する「ミリ波帯フェーズドアレイ無線機」を開発した。ビームステアリングにより、電力と通信信号を同時に受信することができるため、無線電力伝送と無線通信の長距離化や広角化が可能になるという。
東京工業大学科学技術創成研究院未来産業技術研究所の白根篤史准教授と同工学院電気電子系の岡田健一教授は2022年6月、無線電力伝送と無線通信に同時対応する「ミリ波帯フェーズドアレイ無線機」を開発したと発表した。ビームステアリングにより、電力と通信信号を同時に受信することができるため、無線電力伝送と無線通信の長距離化や広角化が可能になるという。
5G(第5世代移動通信)では、大容量のデータを高速かつ低遅延で通信するために、28GHzなどミリ波帯の利用が可能になった。一方で、電波の直進性が強く、通信エリアが限られることや、ミリ波帯中継局用の電源確保が難しい、などの課題もあった。
研究グループはこれまで、「電源の要らないミリ波帯中継機」の開発に取り組んできた。ここで注目したのが無線電力伝送技術の活用である。具体的には、28GHz帯の通信用電波とは別に、電力供給用の24GHz帯電波を受信し、これを直流電力に変換して用いる方法だ。ところがこれまでの無線電力伝送用受信機は、「ビームステアリングができない」「電力効率が低い」という課題があったという。
そこで研究グループは、より効率的に広範囲の電波を送受信できる「ミリ波帯フェーズドアレイ無線機」の開発に取り組んだ。新たに考案したのが、点対称アンテナペアを利用した「アンテナ一体型移相器」である。給電位置の異なる点対称のアンテナを組み合わせ、2つのアンテナをスイッチで切り替えることで180°の移相器として動作する。これにより、移相器の損失を低減させることができたという。しかも、点対称のアンテナをペアにしたことで、水平と垂直の両方向にビームステアリングが可能になった。
「再帰バックスキャッタリング技術」も新たに考案した。受信信号の到来方向と同じ方向に無線通信信号を送信するための技術である。これにより、パッシブ動作で望む方向にビームを形成し、通信を中継することが可能になった。
試作した無線機には、4個の無線ICを搭載した。1個の無線ICには16系統のトランシーバーが集積されており、64素子のフェーズドアレイ無線機という構成である。無線ICはシリコンCMOSプロセスを用いて製造、外形寸法は1.8×1.0mmと小さい。無線機の基板は、LCPフレキシブル基板とリジッド基板のハイブリッド構成とした。
試作したミリ波帯フェーズドアレイ無線機の特性を評価した。この結果、28GHz帯無線通信と24GHz帯無線電力伝送の受信時には、水平と垂直方向において、±45°のビームステアリング特性を達成した。アンテナを用いたOTA試験でも、無線通信の送受ともに64QAM変調信号を用いた通信に成功したという。
今回開発したミリ波帯フェーズドアレイ無線機は、無線電力伝送受信時に0〜45°のビームステアリングを行っても、生成電力は46%を維持できることが分かった。従来は数パーセントまで劣化していた。同じ生成電力であれば、距離を2倍以上に伸ばすことができるという。
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