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実はシェアが急低下、危機の入り口に立つ日本の前工程装置産業湯之上隆のナノフォーカス(52)(4/4 ページ)

» 2022年07月11日 14時00分 公開
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日本の前工程の世界シェアはどうなっているのか?

 日本の世界シェアが高い装置の市場規模は大きくない。一方、市場規模の大きな装置では、日本の世界シェアは低い。

 となると、日本全体の前工程の世界シェアはどうなっているのだろうかという疑問が湧いてきた。そこで、前工程における地域別シェアの推移をグラフにしてみた(図7)。

図7:前工程装置の出荷額と地域別シェアの推移(〜2021年)[クリックで拡大] 出所:野村証券のデータを基に筆者作成

 うわっ、日本の世界シェアが急低下している!


 筆者は、このグラフに大きな衝撃を受けた。日本は、2012年頃までは、35〜40%あたりで米国とトップシェア争いを展開していたが、2013年以降に日本のシェアは急減している。そして、2021年には、米国が40.8%、日本が25.5%、欧州が22.8%、韓国が3.3%、中国が0.4%となった。

 ここで、欧州のシェアは、そのほとんどが露光装置市場を独占しているASMLによるものである。ASMLは2021年に、1台180億円もする最先端露光装置EUVを42台出荷したが、ことし2022年は55台出荷する見込みである。となると、2022年の地域別シェアでは、日本は欧州にも抜かれてしまうかもしれない。

なぜ日本の世界シェアが低下するのか?

 筆者は、さまざまな角度から、この原因究明を試みたが、なかなか明快な答えを出せずにいた。そのような中で、各種の前工程装置について、2011年と2021年の売上高シェアのグラフを書いてみた(図8)。その結果、日本の前工程装置のシェアが低下している原因が分かってきた。

図8:前工程装置のシェア(2011年と2021年)[クリックで拡大] 出所:野村証券のデータを基に筆者作成

 図8を見ると、2011年から2021年の10年間で売上高シェアが向上しているのはマスク検査装置だけであり、それ以外の全ての前工程装置でシェアが低下しているのである。

 つまり、こう言うことである。日本の前工程装置のシェアが2013年頃から低下しているのは、何か特定の装置の売上高シェア低下に原因があるのではなく、ほぼ全ての装置において、満遍なく売上高シェアが低下していることに起因していると言える。これは、非常にたちが悪い。

 というのは、TEL、SCREEN、KOKUSAI ELECTRIC、日立ハイテク、荏原製作所などの日本企業各社の売上高は伸びているかもしれないが、売上高シェアは低下している可能性があるからだ。つまり、日本企業よりも、欧米企業の方が売上高の増加率が高いということである。

 自分の会社が世界の中でどのようなポジションにいるかを把握することは極めて重要である。売上高が増加し、利益(率)も上がっているからと言っても、手放しで喜ぶことはできない。競合他社に対して、自社の売上高や利益(率)が高いか低いかを比較して、はじめて自社の本当の実力が分かるのである。

 日本半導体産業は回復不能なところまで売上高シェアが低下してしまった(図9)。今のままでは日本の前工装置産業も、同じ轍を踏むことになる。前工程装置に関係する日本企業には、早くこの問題に気付いてほしい。その上で、可及的速やかに対策を講じるべきである。

図9:地域別の半導体の売上高シェアの推移(〜2017年)[クリックで拡大] 出所:Gartnerのデータなどを基に筆者作成

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【会場】 東京・港区浜松町 ビジョンセンター浜松町 B1F M会議室

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(次回に続く)

⇒連載「湯之上隆のナノフォーカス」記事一覧


筆者プロフィール

湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長

1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。


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