現在、医療機器でAIを活用するにあたり、どのような制約があるのだろうか。Powell氏は、3つの重要分野を挙げている。まず1つ目は、クラウドにデータを送信することなく、リアルタイムで複雑なAIに対応可能な、適切な強度を備えた計算プラットフォームだ。これは、NVIDIAがClara Holoscanを開発した理由の一つだという。
NVIDIAの3つのロボティクスプラットフォームの中の一つであるClara Holoscan(他の2つは、自動運転車向けの「Drive」と、人間環境で機能するロボットに向けた「Isaac」)は、医療機器の開発に対応した、「NVIDIA Jetson AGX Orin」ベースのハードウェアとソフトウェアを搭載する。
Powell氏は、「われわれがこれを『ロボティクスプラットフォーム』と呼ぶのは、リアルタイムのインテリジェント機器を創出することを目的としているためだ。将来的には、ロボットがサポートなしで手術を行うようになるかもしれないが、未来のX線装置や医療用顕微鏡も、異常を検知するために画像を確認する、放射線技師や科学者の役割を担うロボット機能が搭載されるようになれば、ロボットに分類される可能性がある」と述べる。
Clara Holoscanは、リアルタイムで強力なAI計算を実行することにより、超音波や内視鏡、CT装置などのあらゆる種類の医療用センサーを接続することが可能だ。この他にも、医療に特化した機能としては、高速IOの他、医療物理学や医療画像、医療データなどに向けたAI処理、3Dグラフィックスレンダリング向けアクセラレーションなどが挙げられる。
Powell氏は、「この環境におけるリアルタイムの性質は、文字通り、ループ内の人間がより良い仕事ができるようになることを支援することだ。Clara Holoscanはそれだけでなく、医療機器に『テスラのような時代』をもたらすものでもある」と述べた。
Powell氏は、かつて医療機器の製品寿命がおよそ10年であったと説明。NVIDIAのプラットフォームを使えば、新しいAIアルゴリズムを作成し、必要に応じて無線でアップロードすることで、機器をより賢くすることができる。その結果、医療機器メーカーはビジネスモデルをSaaS(Software-as-a-Service)にシフトしている。
Powell氏は、「彼らは今、非常にAIの技術力が高く、これらのリアルタイムアプリケーションを実行できるだけでなく、リモートで更新できるコンピューティングプラットフォームを持っている。医療機器にクラウド機能を持たせることで、新しいアプリケーションを展開し、数週間ごとにセンサーを更新することができる。経済的な観点からも、非常に喜ばしいことだ」と語った。
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