この状況分析を一言で言えば、政府の敗北宣言、といっても良いかもしれません。社会課題(介護、少子化、その他)に対して、政府(国や地方自治体)だけで主導するのはもう無理、と言い切っています。でも、社会課題という、この日本のお荷物は、うまく回せば儲けのチャンスとなるぜ、という、悪魔のささやきも聞こえてきます。
その他では、”デジタル”と”イノベーション”でボロ負け、と総括しているのは「正直でよろしい」と思っています。
私、“分配”は、法人(会社)とか、儲かっている個人投資家向けの話だと思い込んでいました ―― 私(江端)ごとき市井(しせい)の人間には無関係な話だろう ―― と。しかしよくよく読んでみると、この分配のターゲットは、中間層、つまり庶民であり、江端家であり、つまり「私」だったのです。
えー、面倒くせーなー、お金持ちだけでうまく回してくれれば、それでいいんだけどなー。私(江端)はそれを、寝ころがりながら、『SNSやブログで批判/非難するだけのモラリスト』やっているだけでいいんだけどなーと、都合の良いこと考えていたのですけど、どうも、それではダメみたいです。
あと、上図で登場する「インパクト」ですが、これ、これから登場してくる言葉だと思いまので、ちょっと詳しく解説しておきます。
「インパクト」とは、一般的に社会的インパクトのことで、最もエゲつない事例で説明すれば、こういうことです。
(1)あなたは町内会のボランティアの(非営利の)掃除に参加しました。しかし、その参加による、あなたの良心や達成感などの自己満足などは、『どーでもいい』です。
(2)それ(掃除の参加)は、あなたの健康増進に資しましたか? 地元の人々の親しさは強化されましたか? それは、災害発生時において有用に働きますか? あなたの清掃活動によって、市の清掃費用が削減されて、そのお金が、別の問題(独居老人の訪問サービス等)に生かされましたか?
上記の(2)が、社会的インパクトです。つまり「参加することに意義がある」のではなく、「参加することによって、意図的に狙うべきアウトカム*」」です。そして、このような社会的、環境的なアウトカムを、定量的・定性的に把握することを、「社会インパクト評価」と言います。
*)アウトプット:放っておいても出てくるもの、アウトカム:狙って捻(ひね)り出すもの
例えば、少子化対策が進まない理由は明確です。儲からないからです。育児はコストが高い上に、育児に直接関わる人にとって、その金銭的リターンは非常に小さく、下手するとマイナスです。
しかし、国や地方自治体にとっては、労働力や納税者を増やしてくれる少子化対策は、どんな施策であれ、社会的インパクトそのものです ―― ならば、国や地方自治体がステークホルダー(金主)となって、その施策の支援をするのは当然です。
この一連のキャッシュフローを「見える化」して、未来に収支を得られるステークホルダーに、今、きちんと投資させるアプローチが”インパクト”です。
“インパクト”は、ステークホルダーもキャッシュフローもボンヤリとしていて、その期間が恐ろしく長く(10年間以上ということもある)、ターゲットが社会課題 ―― これだけでも、会社経営の”損得勘定”とは、異なる性質であることはご理解いただけると思います。
ところが、この”インパクト”の評価が、それはもう、めちゃくちゃに難しいのです。これについては、「株価データベースを「Docker」で作ってみる」で、「ソーシャルインパクトボンド」について解説していますので、そちらを御参照ください。
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