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「令和版所得倍増計画」の正体 〜全国民参加の不労所得獲得戦略「お金に愛されないエンジニア」のための新行動論(9)(8/9 ページ)

» 2022年12月01日 11時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]

コンピュータ(計算機)を駆使した「徹底的な自動化」を提案する

 私の考える「新しい資本主義」の骨子は、意思決定の加速化です。

 現在の中国の驚異的な発展は、西側民主主義とは違う、一党独裁の民主主義(?)の元での、経済政策を実施にあります。中国と西側の決定的な違いは、「意思決定の速さ」です。

 もっとも、民主主義は、民主主義であるが故に、その調停に時間がかかります。これは仕方がないことです。しかし、大切なところで時間がかかるのは仕方がないとしても、時間を削減できる部分は多いと思います。特に、国会の審議など、もっとサクサクとやって欲しいです。

 大臣の罷免なんぞ、過去のデータからコンピュータで「辞任/罷免コスト」を算出して、総理または本人にその結果を見せれば、数時間程度で片付く(かな?)と思いますし、儲かっている会社に対して、政府主導で、投資先を提案して、プレッシャーをかけることもできるでしょう。

 インパクト施策などを、民間企業が引き受けたがらないだろうことは当然です(ビジネスモデルが作れないから)。ならば、国は地方自治体が、ステークホルダーになり、これからの出資計画などを、サクッとコンピュータで試算させて、それを示せば、民間企業も乗ってくるかもしれません。

 私が提案する「新しい資本主義」とは、「コンピュータ(計算機)を随所で使いまくる、徹底的な自動化」です。

 ―― このくらい衝撃的な目玉施策を組み込まなければ、国民も、「政府は本気だ」とは思わない。

 たとえ日本の経済成長がチンタラしていたとしても、日本を3倍速で回せば、3倍のスピードで成長することが、(理屈の上では)可能です。つまり、私は、”成長”を前提としない資本主義を、”高速化”で補填しよう、といっているのです。そんでもって、これは現在のコンピュータの能力で、十分可能です。

 ちなみに、私は、AIが日本を乗っ取るという、ばかげた可能性を1mmも信じていません ―― というか、そんな事例があったなら、たった一つで良いので、私に教えてください。万一、この自動化が、ほんとうにヤバくなったら、コンピュータのコンセントを抜けば良いだけです。全電源喪失で、暴走する原子炉と比べれば、比較にならないくらい安全・安心です。

 意思決定システムの一部に、コンピュータの自動化を入れることは、政府の、「技術・イノベーション」「デジタル」頼みとも、良い整合性が取れるはずです。政府は(国会議員も含めてですが)、もう少し技術リテラシーを上げて、政策を見直してもらいたいものだ、と、一企業のエンジニアとしては願わずにはいられないのです。



 それでは、今回のコラムの内容をまとめてみたいと思います。

【1】最近の円安ドル高について、自分なりに整理しようと考えて、「円安」「金利」「国債」と、円安と日米金利差で何が興っているのかを、可能な限り簡単に図解してみました。また、日本と米国で起きている、制御不能な経済について説明を試みました。

【2】現在、政府は、国民に対して株などの債権への投資を呼びかけていますが、日本の国債は、国民の貯金が根拠となっているので、投資はヤバい戦略ではないかと考えました。ところが、NISAやiDeCoなどの制度と合わせて考えると、そこには、国民全員参加の小規模投資という、姑息(こそく)だけど、悪くない国家経済戦略が見えてきました。

【3】前回からの宿題となっていた、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画〜人・技術・スタートアップへの投資の実現〜」の全文レビューを行いました。その結果、(1)官民一体、(2)"分配"重視などの他に、令和の所得倍増計画が、(3)"自助努力”所得倍増、であることが分かって、ショックを受けました

【4】また、その実現手段においては、相変わらず「技術・イノベーション」「デジタル」頼みであり、具体性がなく、特に『何を選んで何を諦めるか』がクリアではなく ―― 正直、『政府は、私(たち)に何をして欲しいのか』が、よく分からない、と総括しました。

【5】そこで、今回、江端版の「新しい資本主義」のアプローチをとして、「コンピュータ(計算機)を随所で使いまくる徹底的な自動化」を提案しました。"成長"を前提としない資本主義を、"高速化"で補填しようと提言し、これが現在のコンピュータの能力で、十分可能であると説明しました。


 以上です。



 今回の執筆では、「令和版所得倍増計画」の内容が、結局は『自分で所得を増やしてね』だということが分かり、かなりガックリきています。私としては、今のままの生活を続けているだけで、『ああ、なんということでしょう。いつの間にか、給与が倍になっていました』という奇跡の到来を期待していました。

 じゃあ、政府は何をやってくれるのかな、と考えると ―― 所得を倍増にする仕組みや基盤(プラットフォーム)を準備してくれる、ということだと理解しました。まあ、それをやってもらえるだけでも、随分助かります。

 と考えつつ、新しい資本主義実現本部/新しい資本主義実現会議の議事録を読んでいますが ―― 正直、うまく回っているように見えない。

 なぜ、私がそう思うか ―― 図表がなく、全て文字で押し通しているから

 基礎資料はあるけど、「新しい資本主義」の内容そのものについての図表がない。特に、参加している委員から提出されている資料に図表が見あたらない。グラフがないということは数値による検証がない、ということであり、表がないということは項目間の比較がされていない、ということです。

 もちろん、公開できない資料というのもあるかもしれませんが、このページの議事内容では、少なくとも私には、何を論点として議論しているのかが読み取れないのです。

 例えば、日本国特許明細書は、図表の添付は義務ではありませんが、図表のない出願で、特許査定されることはありません。なぜなら、特許は技術内容を公開する代償として、特許発明の独占的な実施が認められるものだからです。つまり、図や表のない資料は、「技術の内容を開示する意志がない」と見なされるのです。

いっそのこと「江端」をオブザーバ参加させる

 私、これまで、働き方改革とかでも、政策に関して、同じような批判を繰り返してきまして、多分、政府の政策担当者の方は、随分、不愉快な思いをされてきたと思います。

 で、思ったのですが、いっそのこと、

―― この私(江端)を、「新しい資本主義実現会議」に、オブザーバ参加させる

というのは、いかがでしょうか。

 条件としては、

(1)事前にNDA(秘密保持契約)をとりかわす
(2)会議中、江端は一切の発言を行わない
(3)江端は、本コラムで、その会議の内容と様子を忖度(そんたく)なしで読者に伝える
(4)守秘義務事項については一切開示しない
(5)ご担当者による原稿の事前チェックを受ける
(6)ご要望に応じて「江端ファイアウォール」を発動する

で、いかがでしょうか。

 私も、これまでの人生の中で、さまざまな会議や打ち合わせに出席してきましたので、政治やイデオロギーと全く無関係に、機械のように淡々と処理を行うことができると自負しております。

 私も、いいかげん膨大な政府資料を読むのに疲れてきましたので、この提案は、双方のWin-Winとなると信じます。前向きにご検討頂ければ幸いと存じます(話が確定するまでは、私も秘密を守ります)。

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