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「令和版所得倍増計画」の正体 〜全国民参加の不労所得獲得戦略「お金に愛されないエンジニア」のための新行動論(9)(9/9 ページ)

» 2022年12月01日 11時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]
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国家をあてにせず、一人一人が武器を手に戦う

後輩:「正直、今回は、江端さんを褒めるところが多いコラムでした」

江端:「ほう、例えば?」

後輩:国民全員参加の小規模投資という、姑息(こそく)だけど、悪くない国家経済戦略』は、驚きました。蒙(もう)が啓(ひら)けるとは、こういうことでしょうか ―― やるなー、さすがは財務官僚

江端:「・・・まあ、財務官僚によって考案された戦略かもしれないし、論文や資料をちゃんと調べていないので、これが初出ではないかもしれないけど ―― まずは、私(江端)を褒めろ

後輩:「あと、資料の記載量(行数)から、レポート作成者(政府)の『気合いや理解度』を定量評価する、という、単純だけど、分かりやすい評価方法には舌を巻きました。どこで、こんな方法を思い付いたのですか」

江端:「あまり大声では言えないんだけど、”とある筋”から、某国内大手電機メーカーの知財部と、米国の某テクノロジー関連企業の知財部が、特許発明のクロスライセンス契約をする時 ―― 印刷して積み上げた特許明細書の高さ(ページ数)を使って交渉しているという ―― という噂(うわさ)を聞いて」

後輩:「えっと・・・、この話、”私”は、聞かなかったことにしていいですか?」

江端:「まあ、私も、1日100件くらいの特許明細書を、3日間連続して読み続けていれば、発狂寸前になることは経験済みだから、十分ありえる話であるとは思う ―― まあ、今回は「新しい資本主義のグランドデザイン(以下略)」を読んで、『技術やテクノロジーの内容が、やけに薄いなぁ(気合いが入っていないなぁ)』と気がついて、行数を数えてみただけだけどね」

後輩:「それ以外では、『「誰一人取り残されないデジタル化」をやめよう』ですかね。これも、なかなかインパクトがありました ―― 政府が口にできるかどうかは、さておき」

江端:「だって、これ逆だろ? 『デジタル化に取り残されてしまう人を、◯◯という手段で支えよう』という目標を掲げて、その上で、その具体的な施策をこの「新しい資本主義のグランドデザイン(以下略)に記載すべきだろう?」

後輩:「なるほど」

江端:「『この支援を、”官”から”民”にお願いしたい』とか『町内会で企画してもらいたい』とすれば、地域活性化のイベントとしては「夏まつり」やら、「餅つき大会」よりも、ずっと役に立つ。「スマホによるマイナポイント付与のお手伝い」は―― なにより、未来の(スマホが操作できなくなる)私のためにも、この仕組みは立ち上げて欲しい

後輩:「社会課題についても、政府はSIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)などの導入などと、相変わらず『仕組み』の話に終始しているようですが、限界はあると思いますよ。『ふるさと納税』のような成功例は、珍しいのです」

江端:「まあ、仕組みの話については、私にも責任の一端はあると思っているよ。ここ、10年間くらい、相も変わらず「オンデマンドバス」やら「市民共同のシェアライド」を提案し、そのシステムやアルゴリズムを、クチャクチャと弄(いじ)り続けてきた、その研究の当事者として

後輩:「例えば地方創成などについては、かつての夕張市のように財政破綻する自治体は、これから100以上でも出てくるでしょう。なにしろ、東京23区の一つの区ですら、『財政危機』を訴えて、生き残るための施策を打ち出しているくらいですから」

江端:「もう、いっそのこと、『自治体安楽死マニュアル』でも作った方がいいのかなぁ?」

後輩:「なんで、そう、極端に走るかなぁ。そうじゃなくて、ですね ―― そうですね、例えば、今の、夕張市は、市民の間では、自治意識が芽生えて、住民意識も自立の動きが出ているらしいですよ ―― 生き残るためには、住民一人一人が自ら血を流して戦わなければならないという、覚悟ができたのだと思います。

『“官”から”民”へ』とは、国家を当てにせずに、かつての戦国時代のように、自分の村と家族を守るために、一人一人が武器を手にして戦え ――

ということであり、その覚悟を国民に迫ることが、「新しい資本主義」における政府の仕事であると思うんです」


Profile

江端智一(えばた ともいち)

 日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。

 意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。

 私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。



本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。


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