スマートシティーと同様に、香港政府が力を入れているのがスタートアップの支援や、産官学連携の研究施設の強化である。InvestHKによると、2022年時点で香港に本拠地を置くスタートアップ企業は3985社で、2018年に比べると52%増加しているという。香港には、「AI(人工知能)技術を手掛けるスタートアップ」という条件で、通常よりも安い賃料でオフィスを一定期間借りられる制度などもある。「将来性のあるスタートアップを対象に、賃料を心配せずに開発やビジネス化に集中できる環境を提供している。一定以上の期間が過ぎたら、そのオフィスを引き払ってもらい、次のスタートアップが入りやすいようにしている」(関係者)
スタートアップの支援や、研究施設の強化を担っている機関の一つが、2002年に設立されたHKSTP(Hong Kong Science and Technology Parks corporation)だ。HKSTPが運営するHong Kong Science Parkでは、40万m2の広大な敷地に、研究開発用の施設や実験スペースが設けられている。このPark内で、インフラの提供からベンチャーキャピタルとの関係構築の支援、人材育成まで、さまざまな面でスタートアップやテクノロジー企業をサポートしている。
HKSTPのシニアマネジャーを務めるMillie Hung氏はInnoEXのセミナーに登壇し、「香港のI&T(Innovation&Technology)を推進する体制を整え、新しい産業作りをサポートするのがわれわれの役目だ」と強調した。
同氏によれば、HKSTPは2023年3月時点で、1300社を超えるテクノロジー企業を支援しているという。これらの企業が調達した資金は、過去5年間で800億香港ドル(約1兆3800億円)に上る。2030年には、テクノロジー系のスタートアップ企業を6000社まで増やすことを目標に掲げている。
セミナーでは、HKSTで育ったスタートアップも複数社登壇し、それぞれの事業内容と技術を紹介していた。
InnoEXには、AI技術開発を手掛ける大学/研究施設も出展していた。Chinese University of Hong KongのCentre for Perceptual and Interactive Intelligenceは、対話型AI、自動走行向けのエッジAI、AI技術を活用した動画解析、AI技術を活用した服飾のデザインなど複数のカテゴリーにおいてAI技術の開発を進めている。対話型AIについては、大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)を用いた開発を進めていて、OpenAIの次世代LLMである「GPT-4」を活用する予定もあるという。
Hong Kong University of Science and Technologyは、幅広いアプリケーションに向けて活用できるAIチップを開発するための組織「AI Chip Center for Emerging Smart Systems(ACCESS)」を所有する。ACCESSは、Chinese University of Hong Kongや米Stanford Universityなど、国内外の大学とも連携しながら研究開発を行っている。プロジェクトの一例には、「SRAMベースのCompute-in-Memoryチップの開発」や、「ニューラルネットワークのモデル圧縮と、それに対応する専用ハードウェアアーキテクチャを用いたAIアクセラレーターチップの開発」などがある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.