Intel Foundry ServicesとArmは2023年4月、Intel 18Aプロセス技術向けにArmのIPを最適化することに合意した。この協業が半導体業界にもたらす影響と可能性について、業界の各アナリストに聞いた。
Intel Foundry Services(以下、IFS)とArmは2023年4月、Intel 18Aプロセス技術向けにArmのIP(Intellectual Property)を最適化することに合意した。この協業では、モバイル設計に焦点を当て、DTCO(Design Technology Co-Optimization:設計技術共同最適化)とSTCO(System Technology Co-Optimization:システム技術共同最適化)が実施される。つまり、ArmのIPは、Intelの次の生産ノードと先進パッケージング技術の両方に向けて最適化されることになる。
IFSとArmは、DTCOによって、ArmのIP(Intellectual Property)をIntelの「18A」プロセス向けに共同で微調整し、今後の設計の性能、消費電力、コストを最適化する方針だ。この協業の重要な成果として、ArmベースのモバイルSoC(System on Chip)の開発と、シリコン技術の実証ならびにチップ設計向けのリファレンスプラットフォームの開発が挙げられる。
IntelとArmはこの協業が既に始まっていることを認めている。
Intelの広報担当者は米国EE Timesに対し、「この協業では、Intel 18Aプロセス上でArmのSoC設計の性能、消費電力、面積利用率を実証する」と語った。
一方、Armの広報担当者はEE Timesに対し「当社は、ArmベースのSoC設計に最適な消費電力、性能、面積を確保したカスタムIPを構築している。今回の発表によって、ArmベースのSoC設計で先進ノードをターゲットにする際、当社のライセンシーが選べる選択肢1つ増やすことができる」と述べた。
今回発表した両社の“多世代”協業の初期段階では、モバイルSoCプロジェクトと適切なArm IP(例えばCortex-A CPU IPやMali GPU IPなど)に焦点が当てられる。両社によると、今後は協業の範囲が自動車、航空宇宙、データセンター(例えばNeoverse)、IoT(モノのインターネット)、政府向けアプリケーションに拡大される可能性があるという。「政府向けアプリケーション」はやや曖昧な言葉だが、Intel 18Aが既に米国国防省に選ばれていることを踏まえると、おそらくArmライセンシーにとって、最適化されたArm IPで米国陸軍のニーズに対処することがやや易になると思われる。
IFSとArmによる発表の一般的な重要性について、過小評価はできない。IFSは、TSMCやSamsung Foundryといった競合先と同様に、最適化されたArm IPをベースとするSoCを生産できるようになったのだ。
一方、Armは自社のコアが可能な限り多くの製造技術を用いて、可能な限り多くのチップメーカーによって作られるようにする必要がある。
英国のカスタムアナリスト企業More Than Mooreの主席アナリストを務めるIan Cutress氏は、「Armは、自社のコアをできるだけ多くのプロセスノードで検証可能にする必要がある。Intelにとっては、多くのArmエコシステムプレーヤーに対するセールスポイントとなる。Intelは顧客を桁違いに増やしたいと考えているが、Armにとっては、これは“新たな一歩”だ」と述べている。
米国の技術分析会社Real World Technologiesのプレジデントで、機械学習の業界標準ベンチマーク「MLPerf」の推論/パワーの共同議長を務めるDavid Kanter氏は、「IFSは、顧客が製品を構築できるように、できるだけ多くのIPを保有したいと考えている。IFSで利用できるIPが多ければ多いほど、顧客の抵抗感は小さくなる」と述べている。
米国の市場調査会社Tirias Researchの主席アナリストを務めるJim McGregor氏は、「今回の協業によって、Intelのファウンドリーは、性能効率を重視する業界のニーズに対応することが可能となる。新たな最先端ファウンドリーが提供されることで、ファウンドリー市場の競争力も高まるだろう」と述べている。
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