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IntelとArmの協業が半導体業界にもたらすものアナリストらが分析(2/5 ページ)

» 2023年05月30日 11時30分 公開
[Anton ShilovEE Times]

モバイルSoCからスタートする理由

 現時点では、協業の範囲はモバイルSoCに限定されている。これは、Intelが近年、データセンターハードウェアに注力していることや、同社の大型チップ全般における経験を考えるとやや意外かもしれないが、スマートフォンSoCはArmにとって最大の収益源の一つであり、IFSにとっても良い機会であるため、両社にとって理にかなっている。

 Cutres氏は、「現在、ソフトバンクおよびIPO(新規株式公開)の関係で、Armは実施するプロジェクトを制限しているため、最も利益の高い機会を選んでいる。IFSが提供しているのは高性能ノードのみで、ダイサイズが小さく(100〜150mm2以下)、700mm2のデータセンター向け大型シリコンと比較して歩留まりが良いことから、モバイルSoCは適切なターゲットといえる。車載チップは必ずしも最先端技術を必要としないこともあり、モバイルSoCが適切だ。TSMCは、収益の34%がスマホで、44%がHPC(高性能コンピューティング)であるため、IFSとArmがモバイルIPの検証を行うことは理にかなっている」と述べている。

 Intel自身は、Intel 18Aプロセスについて、性能と電力、トランジスタ密度の点で業界をリードするノードだと見なしている。同社は当初、2025年中にIntel 18AプロセスにASMLの、開口率(NA)が0.55の高NA EUV(極端紫外線)リソグラフィ装置「TWINSCAN EXE」を初めて採用する予定だった。しかし結局、次世代機ではなく、NAが0.33の既存機種とダブルパターニングを使って、2024年後半に量産を開始することを明らかにした。また、EUVのダブルパターニングを削減し、Intel 20AとIntel 18Aのコストを最適化するために、Applied Materialsのパターニング装置「Centura Sculpta」を採用することも発表した。

 IntelがIntel 18Aで、最高の性能効率とトランジスタ密度を、好条件の価格帯で提供することができれば、ファブレスのチップ設計者は同プロセスを採用すると考えられる。さらに、最適化されたArmの標準IPによって、同プロセス技術はSoC開発者にとってさらに魅力的なものになると期待される。

 Kanter氏は、「Armコアをサポートする目的は、幅広い製品で使用され、多くのSoCの『標準的なビルディングブロック』になることだ」と述べている。

恩恵を受けるライセンシーは

 今回の発表自体はごく一般的なものだったが、今回の協業は、Armのライセンシーに多くの可能性をもたらすことを約束するものだ。ライセンシーにはQualcommも含まれる。同社は、Intel 18Aプロセスを採用する計画をすでに発表しているが、どのような種類の製品に使用するかは明らかにしていない。MediaTekもIFSの能力を活用するために契約した主要なモバイルSoC開発企業だが、Intel 18Aプロセスにはまだ関心を示していない。アナリストによると、IFSとArmの発表によって恩恵を受ける企業は、明らかではないが他にも存在する可能性があるという。

 Cutress氏は、「Qualcommは関心を示しているが、私は、企業が資金を引き渡し、設計チームに投資し始めるまでは完全に信じはしない。MediaTekも、これまでのところモバイルSoCにおいては、あまり興味がない様子だ。そうなると、他の主要なプレーヤーはほとんど残らない。可能性があるとすれば、Apple(Intelがリーダーシップを発揮した場合)と、Samsung Electronics(奇妙だが不可能ではない)、中国のUNISOC(米国政府との間で抱えている問題を回避する方法になるかもしれない)だろう」と述べている。

 Qualcommはすでに、カスタマイズされた高性能Armコアを「Snapdragon」SoCに採用している。同社は、今後数年の間に、2021年に買収したNuviaが開発した高度なカスタムArmマイクロアーキテクチャをさまざまな製品に採用する予定だという。そのため、標準的な高性能Arm Cortexコアの実装にはあまり関心がないと思われるが、Intel 18Aに最適化されたArm技術を活用することは可能だ。

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