出力電流の上昇に伴う損失の増加を抑える手法として大きく期待されているのが、損失の少ない材料の採用である。具体的には、半導体素子の材料を現在の主流であるシリコン(Si)から、Siよりもエネルギーバンドギャップの広い材料(「ワイドギャップ」半導体材料)に変更する。
パワーデバイス向けワイドギャップ半導体材料の候補には、シリコンカーバイド(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などがある。SiCデバイスは既に自動車や鉄道車両などで実用化が進んでいる。
ワイドギャップ半導体は絶縁破壊電界強度がSiに比べて10倍前後と高い。このためトランジスタの耐圧を維持するためのドリフト層(この層は抵抗率があまり低くない)を約10分の1に薄くできる。この結果、トランジスタの導通損失とスイッチング損失が減少する。
例えばSiのIGBTとダイオードを使ったパワーモジュールに比べ、SiCのMOSFETとダイオードを使ったパワーモジュールは、電力損失を約3割(7割減)と大きく減らせる。
次に、インバーター用パワーモジュールの放熱構造を例に、放熱技術の改良トレンドを説明しよう。従来は金属製のヒートシンクにグリースを介してパワーモジュール(底面)を接続していた。片面冷却構造(片面放熱構造)とも呼ばれる。次にパワーモジュールの表面と底面の両方にグリースを介してヒートシンクを接続した両面冷却(両面放熱)構造が登場し、熱抵抗を低減した。
さらに、グリースを省いてヒートシンクとモジュール(片面)を直接接続する構造(直接冷却構造)が開発された。そして直接接続をモジュールの両面に適用した放熱構造(直接両面冷却構造)が登場するに至る。
最後は動作温度の上昇を許容するという対策である。Siに比べるとワイドギャップ半導体は高温動作に強い。Siデバイスの動作温度(接合温度)は125℃〜150℃がおおよその上限とされている。ワイドギャップデバイスは一時、250℃〜300℃での動作が検討された。しかし損失の増大や受動部品の高温対応といった課題があり、実用化は進んでいない。実際には175℃〜200℃が当面の目標となっている。
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