図4は、半導体売上高上位10社の時価総額比較(2024年1月16日現在)である(韓国ウォンおよびユーロの米ドル換算レートも、1月16日の数値を採用している)
図4を見ると、NVIDIAの時価総額が突出しており、1兆米ドルを上回っていることが分かる。Intelの時価総額は2000億米ドル程度にとどまっており、6〜7倍の差が開いている。年間の半導体売上高が拮抗(きっこう)していても、赤字を計上し、この先の成長戦略を描きにくいIntelと、営業利益率50%超という利益をたたき出し、これからのAI時代をけん引してくれそうなNVIDIAとでは、株式市場における格差がここまで開いてしまうのである。
3番手のSamsungは、この中で唯一の総合電機メーカーであり、半導体だけでなく、ディスプレイ、スマホ、家電機器などあらゆる事業を含めた上で約4000億米ドルの時価総額になっている。半導体に限った事業価値は、Intelと拮抗するレベルかもしれない。
4番手のBroadcomの時価総額は約5000億米ドル、この中ではNVIDIAに次ぐ2番目である。同社はデータセンターや通信キャリア向けを中心としたITインフラ構築に欠かせない半導体メーカーとして、高い評価を得ていることが分かる。NVIDIAのような成長戦略が描けているわけではないが、Broadcomの代わりが存在しないこと、収益が安定していること、などが強みだろう。
5番手のQualcommは、スマホ市場で最も高い実績を上げている企業だ。だが、そのスマホ市場の低迷によって売り上げや営業利益が伸び悩んでいる。第5世代移動通信(5G)に対する期待が高まれば、Qualcommに対する評価はもっと高まるだろう。
6番手のAMDは、Intelと事業領域が非常に近いが、売上高はIntelの半分以下で、工場を持たないファブレスメーカーである。にもかかわらず、時価総額ではIntelを上回っている点が興味深い。これは、AMDがAI分野でNVIDIAの対抗馬として評価されていること、一方のIntelは工場を持っていることが株式市場ではプラスに評価されていないこと、などが要因と推察される。
7番手のSK hynixはメモリ専業メーカーであり、昨今のメモリ不況で赤字決算が続いているが、NVIDIAにHBM(AI用高速DRAM)を提供できる唯一のメモリメーカーである。業績そのものはまだ赤字だが、時価総額はすでにメモリ市況のピーク時に近く、急速に注目度が高まっていることが分かる。
8番手のTexas Instruments(TI)はQualcommに次ぐ時価総額となっている。TIは汎用アナログ市場で約3割のシェアを誇り、安定した業績を維持できることが強みだが、昨今ではその汎用アナログ市場が大きく低迷しており、回復のめどが立っていない。時価総額に今のところ大きな変動はないが、今後の見通しにはやや懸念がある。
9番手、10番手のInfineon Technologies、STMicroelectronicsはいずれも欧州を代表する半導体メーカーで、アナログおよびパワーデバイスを強みとする点でも共通している。業績も安定しており、時価総額にも大きな変動はない。当面は現状の評価が続きそうである。
かつて、PCを中心にIT業界が形成されていた当時は、Intelは売上高でも時価総額でも他の半導体メーカーを圧倒しており、業界の王者として君臨していた。長い半導体市場の歴史の中で、四半世紀に渡って売上高トップの座を維持した半導体メーカーなど他には存在しない。今後もPCがなくなることはないだろうし、Intelが業界にとって必要不可欠な企業であることは変わりないだろう。しかし、2023年の半導体ランキングでNVIDIAが首位に躍り出たこと、そして同社が時価総額では他の半導体メーカーを圧倒していることは、時代の求めるものがそれだけ変化したことを物語っている。
NVIDIAへの注目度は今後ますます高まるだろうが、同社が唯一無二の存在でいられるのか、AI関連で同社が今のポジションを維持できるのか、そのような保証はどこにもない。むしろ今回のような変化は、半導体業界が新たな戦国時代に突入した、と見るべきなのだろう。現時点で日系企業があまり注目されておらず、実質的に「蚊帳の外」に置かれている点は残念だが、将来的には「無視できない」といわれる企業が台頭してくることを願っている。NVIDIAだって、1993年に設立された若い会社なのだから――
慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。
1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。
2010年にアイサプライ(現Omdia)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。
2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。
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