2024年も間もなく終わりを迎えます。そこで、EE Times Japan編集部のメンバーが、半導体業界の“世相”を表す「ことしの漢字」を考えてみました。
筆者が選んだ漢字は「差」です。
2024年の半導体市場は、全体としてみれば好調だったといえます。世界半導体市場統計(WSTS)によれば、2024年の世界半導体市場は前年比19.0%増の6268億6900万米ドルと、4年ぶりのマイナス成長となった2023年から大きく回復。2022年の実績も上回り、過去最高規模を更新する見込みです。
しかし、2024年の成長はもっぱらAI(人工知能)需要の急拡大にけん引されたもので、製品別でみると前年からプラス成長となるのは前年比81.0%増のメモリと同16.9%増のロジックIC、あとは同3.9%増となったマイクロICのみ。その他は全て前年比減となっています。恩恵を受けているのはNVIDIAを筆頭とした一部のロジックメーカーおよびメモリメーカーだけといえ、その他多くの半導体メーカーにとっては厳しい環境が続いた形。2024年は、AIブームの波に乗れるかどうかで、格差が広がった1年になったといえます。
近年各国で活発だった半導体の自国/地域内製造能力強化に向けた動きの進捗にも、大きな差がみられました。日本においては、2024年2月にTSMCの熊本第1工場が開所。年内に本格稼働する予定となっていて(ことしもあと数日。今のところ稼働開始したという公式アナウンスはないですが)、さらに6/7nmプロセスを導入する第二工場建設も正式に発表されました。また、日本政府の支援先の筆頭として挙げられるRapidusでも2024年12月、ついに国内初となるEUV(極端紫外線)露光装置を千歳工場に搬入。2027年に2nm世代の半導体を量産という目標に向け着実に準備が進んでいて、これらの計画に伴う地域経済への効果も期待されています。
米国では、第1工場の稼働時期が2025年前半に延期されるなどしたものの、TSMCのアリゾナ新工場(第1工場では4nmプロセス、第2工場では3nmおよび2nmプロセス、第3工場では2nmまたはそれ以細のプロセスを導入)に関し、2024年11月にCHIPS法による米国の助成が確定。その後IntelやSamsung Electronics(以下、Samsung)、SK hynix、Micron Technologyなど各社の工場新設計画についてもドナルド・トランプ大統領の就任を前に、相次いで助成が確定しました。ただ、Samsungはファウンドリー事業の不振などから、テキサス州テイラーの新工場での生産開始を2024年後半から「おそらく2026年に」延期すると発表(おそらくこの影響で補助金額が減額された)するなど、必ずしも計画通りに進んでいるわけではありません。
そして、波乱が目立ったのがドイツです。ドイツでもTSMCの新工場(Infineon Technologies、NXP Semiconductors、Robert Boschと合弁)については計画通り進んでいるようで、2024年8月には起工式が開催されました。しかし、総投資額300億ユーロ超とドイツ内で最大規模の投資計画で、最先端プロセスが導入されるとして期待されていたIntelのドイツ新工場が、市場の需要予測に基づき「約2年間保留」されることに。Intelはその後、CEO(最高経営責任者)だったPat Gelsinger氏が退任。現在大きな変革期にあり、この計画が完全に中止となる可能性について懸念の声も上がっています。
また、2024年10月にはWolfspeedがドイツ・ザールラント州エンドルフに計画していた200mmウエハー SiC(炭化ケイ素)工場についても、電気自動車(EV)の普及遅れなどを理由に、計画が無期限延期されたと報じられるなど、大規模投資計画の発表が相次ぎ期待に沸いていた1〜2年前から一転、厳しいニュースが続きました。ドイツに住む筆者としてはこれらの工場が完成した際には取材の機会を……と願っていたこともあり(そんな機会が得られるか分かりませんが)、こうした状況になったことは残念でなりません。
さて、そんな半導体業界ですが、市場としては2025年、全ての製品分野でプラス成長となり、過去最高を更新することが見込まれています(WSTSの予測)。ただ、米国の政権交代による関税引き上げや輸出規制強化などをはじめ懸念も多く、はっきりと見通しが明るいとはいえないのが正直なところ。とにかく、日々最新の情報を追いながら、読者の皆さんに有益な記事を届けていきたいと思っています。
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