Kinaraは2世代のAIアクセラレーターを開発した。第1世代の「Ara-1」はビジョンに焦点を当てたもので、スマートリテールおよびスマートシティーアプリケーションを対象とする。第2世代の「Ara-2」は40TOPSの処理能力を備え、最大300億(INT4)パラメータのLLMおよびマルチモーダルトランスフォーマーを対象としている。
Vrijen氏は「大きな魅力を感じたのは拡張性の高さだ。複数のAra-2を組み合わせることで、必要なユースケースに合わせて迅速に拡張できる。SoC(System on Chip)内に40TOPSのNPUを追加する方法では、これは実現できなかった」と述べている。
なお、KinaraのIP(Intellectual Property)はすでにNXPがチップに搭載している自社開発のNPU「eIQ Neutron」に取って代わるものではないという。
「NXPはeIQ Neutronに関して強固なロードマップを描いている。もちろん両者のIPの強みを生かすための選択肢も検討するが、現時点ではKinaraのIPをNXPのプロセッサポートフォリオにどのように統合するかは未定だ」(Vrijen氏)
買収後もAra-1とAra-2はディスクリートチップとして引き続き提供される。
「当面の計画は、Kinaraの既存製品とロードマップをサポートし、それぞれ個別にNXPのプロセッサポートフォリオと一致させることだ。時間をかけて顧客のユースケースを学び、SoCへのより緊密な統合について検討する。KinaraとNXPのIPがSoCとして統合する前に、同梱型のダイやモジュールという形で統合される可能性もある」(Vrijen氏)
Ara-1とAra-2はどちらもNXPのクロスオーバーMCU「i.MX-RTシリーズ」またはアプリケーションプロセッサ「i.MXシリーズ」をホストとして使用できる。なお、Kinaraの顧客はNXP製でないホストプロセッサを使用していてもNXPのサービスを受けられるという。
「NXPとKinaraのポートフォリオは事前にテストされ、統合されたものになる。そのため、両者を合わせて使えば顧客は市場投入と開発時間の観点でより多くのメリットを得られるだろう。ただし、Kinara製品をNXP以外のホストと組み合わせることを制限するつもりはない。必要に応じて、いつでもNXPのSKU(Stock Keeping Unit)を個別に購入できる」(Vrijen氏)
Vrijen氏によると、Kinaraはこれまでに約50万個のAIチップを販売した実績があるという。用途は主にパイロットプログラムとユースケース評価だ。Kinaraのターゲットは主に産業/民生機器だが、NXPはKinaraのチップを自動車向けにも販売したいと考えている。Vrijen氏は「Kinaraのチップは先進運転支援システム(ADAS)や自動運転向けではなく、インフォテインメントアプリケーションや車内監視向けに提供されるだろう」と述べた。
NXPのセキュア・コネクテッド・エッジ・グループのエンジニアリング担当上級副社長であるAjith Mekkoth氏はEE Timesに対して「NXPの目標は、可能な限りエンドツーエンドのソリューションを提供することだ」と語った。
「ディスクリートNPUの魅力の1つは、AIワークロードが進化していることだ。それが落ち着くまで、統合の議論を急ぐのは賢明ではないかもしれない。生成AIのワークロードがどこで停滞するかを理解し、適切なコンピューティング構造の統合を検討する必要がある。その間、顧客がディスクリートソリューションを柔軟なものだと感じてくれることを期待している」
Kinaraの成熟したソフトウェアツールチェーンも大きな魅力の1つだという。
「導入の大きなハードルは、実際に使用できるかどうかだ」とMekkoth氏は語る。「AIチップを有効活用するためには、顧客がAIモデルを簡単に圧縮したり、自社開発のモデルをコンパイルしたりできる必要がある。Kinaraはそれを理解していて、そこに多くの労力を費やしてきた」
今後、KinaraのツールチェーンはNXPのeIQエコシステムに組み込まれる可能性が高いという。
Kinaraはシリコンバレーとインドのハイデラバードに拠点を持っていて、エンジニアを中心に約100人の従業員がいる。Vrijen氏は、NXPが米国とインドのチーム全体を完全に吸収すると予想している。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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