Valens製品はこれまでオーディオ機器や自動車向けで採用実績が多かったが、医療機器への導入例も増えている。特に、体内に挿入して診断や治療を行う内視鏡では、低ノイズ性や高速伝送が強く求められることから、引き合いが多いという。
「途中で映像が途切れてしまえば医師にとっては目隠しをされているようなもので、患者への影響も大きい。内視鏡は、ノイズの影響を排除して常に明確な画像を伝送することが特に強く求められる分野だ」(Friedman氏)
内視鏡市場はこれまでオリンパスや富士フイルム、PENTAX Medicalといった日本企業がリードしてきた。しかし、現在内視鏡メーカーに求められる技術が変化し始め、日本企業も対応を迫られている。
その変化とは、再使用型から使い捨て型への移行だ。患者の体内に挿入する光学ヘッドはこれまで使うたびに洗浄することが主流だったが、不完全な洗浄による細菌感染の例があることや、洗浄にかかる時間とコストが課題となっていた。これを受けて、米食品医薬品局(FDA)は正式に使い捨て型への移行を推奨している。
これに対応を進めているのが中国企業だ。使い捨て型内視鏡には、従来と同じような映像の解像度の高さやリアルタイム性、電磁両立性(EMC)対策の徹底に加えて、小型かつ低コスト、低消費電力であることも求められるので、日本企業にとってはこれまでとは違った競争環境になる。
使い捨て型の内視鏡に向け、Valensが提供しているのがMIPI A-PHY準拠のチップセット(シリアライザおよびデシリアライザ)「VA7000シリーズ」だ。MIPI A-PHYは車載向け規格であり、同製品はもともと車載向けに開発されたものだが、「コネクティビティに求められることは自動車と医療機器で共通している」(Friedman氏)という。
VA7000は、MIPI A-PHYに準拠した高レベルのEMC特性や広い帯域幅が特徴で、高解像度映像を高速に伝送できる。1本のケーブルでデータや電力をまとめて送れるので、使い捨てに適したシンプルで低コストなシステムが実現可能だ。
使い捨ての操作部に搭載するシリアライザの機能はシンプルにし、繰り返し使用する本体に搭載するデシリアライザを高機能にすることで、コスト抑制と性能を両立させている。
他社製のチップセットを用いると、ノイズを抑えるためにケーブルを短く製造しなければならない場合もあるというが、VA7000はノイズの影響を受けにくいので、ケーブルを長くできる。これによって設計の自由度が高まり、医療現場でも利用しやすくなるという。
Valensは今後も、自動車向けに培った技術を活用し、内視鏡を含めた医療機器向けの製品提供を進める計画だ。
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