低温低圧、短時間でナノダイヤモンドを合成:アダマンタンの結晶に電子線照射
東京大学の研究グループは、原子分解能透過電子顕微鏡を用い、「アダマンタン(Ad)」の結晶に電子線照射を行い、大きさがそろった球状の「ナノダイヤモンド(ND)」を、低温・低圧という条件下で短時間に合成した。
東京大学大学院理学系研究科の中村栄一特任教授らによる研究グループは2025年9月、原子分解能透過電子顕微鏡を用い、「アダマンタン(Ad)」の結晶に電子線照射を行い、大きさがそろった球状の「ナノダイヤモンド(ND)」を、低温・低圧という条件下で短時間に合成できたと発表した。
ダイヤモンドはその輝きだけでなく、硬度や生体適合性にも優れている。こうした特性から、NDと呼ばれるナノスケールのダイヤモンドは、材料科学や生命科学の分野で注目されている。ところが、人工ダイヤモンドを合成するには、約1500℃の高温かつ約10GPaの高圧といった条件が必要となる。その上、NDはサイズの制限もあり、構造欠陥が避けられなかったという。
こうした中、ダイヤモンド骨格の構成要素である10炭素の環状構造を持つAdのC-H結合を全て取り除くことができれば、ダイヤモンドになることがこれまでの研究で分かっていたという。
ダイヤモンドの合成と成因[クリックで拡大] 出所:岡山大学の神崎正美教授(実教出版理科資料)
アダマンタンからのダイヤモンド合成[クリックで拡大] 出所:東京大学
研究グループは今回、独自開発のイメージング分析手法「高速・高分解能電子顕微鏡法(SMART-EM)」を活用、Ad結晶に80〜200keVの電子線を照射して、NDが生成する過程を観察した。これにより、水素ガスが発生・消滅し、Adオリゴマーから球状かつ欠陥のない立方晶NDが生成される様子を確認できたという。
具体的には、Ad5(5量体)からAd8への展開が、〜9×109nm2(e−)−1の一次反応速度で進んだ。さらに、Ad17からAd26への成長が〜12×109nm2(e−)−1という、ほぼ同じ一時反応定数で進行することが分かった。
ダイヤモンド骨格が成長する様子を、オングストローム以下の空間分解能と、ミリ秒レベルの時間分解能で撮影した。この結果、電子線によってAd分子が最初にイオン化し、C-H結合が選択的に切れる。これによって生じたラジカルが、二重化を繰り返すことによりAdの多量化が進み、ダイヤモンド骨格が成長することを確認した。
これらの研究成果に基づき、合成条件を最適化したところ、−173〜23℃の低温かつ10−5Paという低圧の環境で、しかも1〜20秒という短い時間で、NDを収率100%で合成することに成功した。
AR-TEMによる分子レベルのND生成解析[クリックで拡大] 出所:東京大学
想定される反応機構[クリックで拡大] 出所:東京大学
ND結晶のサイズ分布解析[クリックで拡大] 出所:東京大学
スパッタ法で高品質ScAlN薄膜の作製に成功
東京理科大学の研究グループは、東京大学や住友電気工業と共同で、汎用性の高いスパッタ法を用い、高品質の窒化スカンジウムアルミニウム(ScAlN)薄膜を作製することに成功した。
東京大ら、機能性酸化物の「新しい電子状態」を発見
東京大学とNTTは日本原子力研究開発機構と共同で、機能性酸化物の新しい電子状態を発見した。ストロンチウムルテニウム酸化物「SrRuO3」において、一体化しているとみられていた「ルテニウム金属」と「酸素原子」の電子状態が、実際は異なる電子状態であることを初めて突き止めた。
京大やトヨタなど、全固体フッ化物イオン二次電池用正極材料を開発
京都大学らの研究グループは、量子科学技術研究開発機構や東京大学、兵庫県立大学、東京科学大学および、トヨタ自動車らと共同で、全固体フッ化物イオン二次電池用の高容量インターカレーション正極材料を新たに開発した。ペロブスカイト酸フッ化物が、既存のリチウムイオン二次電池正極材料に比べ2倍を超える可逆容量を示すことが分かった。
GAA型酸化物半導体トランジスタ、東京大らが開発
東京大学と奈良先端科学技術大学院大学の共同研究グループは、新たに開発した結晶化酸化物半導体の形成技術を用い、「ゲートオールアラウンド(GAA)型酸化物半導体トランジスタ」を開発した。酸化物半導体デバイスのさらなる高集積化と高機能化を実現できる可能性が高まった。
カメラと制御機器が直接対話して学習! 「AI-to-AI通信技術」
東京大学は、「AI-to-AI通信技術」を初めて開発した。この技術を用いると、カメラや制御機器などの電子機器に搭載されたAI同士が直接対話し、協調学習することが可能となる。
チップに「水路」を作り冷却液を流し込む 高効率に放熱
東京大学生産技術研究所は、AIチップや電子機器の性能向上や省エネ化を可能にする「高効率放熱技術」を開発した。特殊な三次元マイクロ流路構造を用いて開発した水冷システムは、極めて高い冷却効率と安定性を実現した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.