東京大学とNTTは日本原子力研究開発機構と共同で、機能性酸化物の新しい電子状態を発見した。ストロンチウムルテニウム酸化物「SrRuO3」において、一体化しているとみられていた「ルテニウム金属」と「酸素原子」の電子状態が、実際は異なる電子状態であることを初めて突き止めた。
東京大学とNTTは2025年7月、日本原子力研究開発機構と共同で、機能性酸化物の新しい電子状態を発見したと発表した。ストロンチウムルテニウム酸化物「SrRuO3」において、一体化しているとみられていた「ルテニウム金属」と「酸素原子」の電子状態が、実際は異なる電子状態であることを初めて突き止めた。
陽イオンの遷移金属原子と、陰イオンの酸素原子からなる機能性酸化物は、磁性や誘電性、超伝導性などさまざまな物性を示すため、次世代のエレクトロニクス材料として注目されている。ただこれまでは、遷移金属と酸素の電子軌道は強く混成し、類似した電子状態を持つと考えられてきた。このため、酸素原子の電子状態に着目した研究は行われてこなかった。しかも、酸素原子の電子状態を精密に調べるための良質な機能性酸化物を作製することが難しかったという。
SrRuO3は、陽イオンの「ルテニウム(Ru)」と陰イオンである「酸素」の電子軌道が混成した電子状態を形成している。しかし、フェルミエネルギーにおける電子状態が、材料の物性にどのように関与しているかは不明であった。
実験では、NTTが開発してきた「酸化物分子線エピタキシー(ML-MBE)法」を用い、結晶性に優れた高品質のSrRuO3薄膜を作製した。この試料を用いて放射光による光電子分光測定を行い、フェルミエネルギーにおける電子状態を調べた。今回は、Ru 4d電子軌道と0.2p電子軌道の吸収エネルギーに対応するX線を用いることで、部分状態密度の測定に成功した。
この結果、Ruの電子軌道に由来する部分状態密度は、フェルミエネルギー上に存在するなど金属的であった。これに対し、酸素の電子軌道に由来する部分状態密度は、フェルミエネルギー上にほぼ存在せず、絶縁体に近い状態であることが分かった。
研究グループは、酸素原子の電子軌道における「電子相関」の大きさを実験的に見積もった。この結果、酸素の電子相関は、これまでの研究で報告されていたRuの電子相関に比べ、数倍も大きいことが分かった。酸素の大きな電子相関によって絶縁体に近い状態となり、電気伝導にはほぼ関与しないことを確認した。
今回の研究成果は、東京大学大学院工学系研究科の関祐一大学院生(当時は修士課程2年)、稲垣洸大大学院生(同)、武田崇仁大学院生(当時は博士課程3年)、田中雅明教授、小林正起准教授(当時)、東京大学大学院理学系研究科の藤森淳名誉教授、日本原子力研究開発機構の竹田幸治研究主幹、藤森伸一グループリーダーおよび、NTTらによるものである。
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