太陽光パネルのカバーガラスから希少元素を回収:アンチモンの抽出プロセスを開発
産業技術総合研究所(産総研)は、太陽光パネルで用いられたカバーガラスの中から、希少元素「アンチモン(Sb)」を効率よく分離し回収するための技術を、中部電力と共同で開発した。今回は「水熱処理技術」を用い、廃ガラスの中から約8割のSbを抽出することに成功した。
産業技術総合研究所(産総研)は2025年9月、太陽光パネルで用いられたカバーガラスの中から、希少元素「アンチモン(Sb)」を効率よく分離し回収するための技術を、中部電力と共同で開発したと発表した。今回は「水熱処理技術」を用い、廃ガラスの中から約8割のSbを抽出することに成功した。
太陽光パネルの受光面側を保護するために用いられるカバーガラスは、透明性を高めるため酸化アンチモン(Sb2O3)が添加されているという。2010年ごろから本格的な設置が始まった太陽電池モジュールだが、2030年後半には太陽光パネルが寿命を迎えるとみられている。このためカバーガラスも大量に廃棄される可能性が高い。
研究グループは今回、カバーガラスの中から効率よくSbを分離、回収するための手法として、水熱処理技術に着目した。カバーガラスの再資源化に向けた実験では、使用済み太陽光パネルから取り外したカバーガラスを粉砕し粉末状とした。この粉末を密閉容器に入れて水と混ぜてかき回しながら、圧力容器の標準設計温度以下で1〜6時間の水熱処理を行った。
水熱処理によるカバーガラス再資源化プロセスの概要図[クリックで拡大] 出所:産総研
これによって得られたスラリーは、遠心分離によって「液相」と「沈殿物(粉末)」に分かれる。こうして得られた粉末について、蛍光X線(XRF)分析法によるSb抽出率の算出と、X線回折(XDR)法による生成物の同定を行った。この結果、6時間処理した後は、Sb抽出率が約8割に達した。また、水滅処理後の試料は、ケイ素を含む結晶に帰属可能な回折線が確認されており、水熱処理を経て結晶化されることが分かった。さらに、これらの回折線は処理時間が経過するとともに強度が増し、半値幅も狭くなることから結晶の成長が確認された。
水熱処理後に得られた粉末のXRF分析結果(その1)[クリックで拡大] 出所:産総研
水熱処理後に得られた粉末のXRD測定結果(その2)[クリックで拡大] 出所:産総研
今回の研究成果は、産総研マルチマテリアル研究部門の三村憲一研究グループ長や若林隆太郎主任研究員、大橋文彦技術担当主幹、材料基盤研究部門の赤井智子研究部門付および、中部電力の研究者によるものである。
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