東京科学大学の菅原聡准教授らによる研究グループは、0.2Vという極めて低い電圧でデータを保持できるCMOSメモリ技術を開発した。試作したSRAMマクロは、待機時の電力を不揮発性メモリ並みに削減できるという。
東京科学大学総合研究院未来産業技術研究所の菅原聡准教授、塩津勇作研究員、同大学工学院電気電子系の伊藤克俊大学院生(当時)による研究グループは2025年10月、0.2Vという極めて低い電圧でデータを保持できるCMOSメモリ技術を開発したと発表した。試作したSRAMマクロは、待機時の電力を不揮発性メモリ並みに削減できるという。
研究グループはこれまで、極めて低い電圧でデータを保持できるSRAM(ULVR-SRAM)の研究に取り組んできた。そして、伝達特性(VTC)のヒステリシス幅を最大化できる新型インバーター(nST1)を提案した。
このnST1インバーターは、シュミットトリガー(ST1)インバーターにおける入力段のpMOSを入力から切り離し、入力段インバーターを疑似nMOS構成にしたものに相当するという。つまり、nST1インバーターはこのpMOSによるリーク電流によって駆動される。実験結果から、nST1インバーターは、0.2VにおいてVTCのヒステリシス幅は最大化されていることが分かった。
次に、nST1インバーターを用い新型のULVR-SRAMを開発した。従来のSRAMにおけるロードトランジスタ(LD)とパストランジスタ(PSS)を1つのトランジスタ(LPT)に統合できるため、少ないトランジスタ数でセルを構成できるという。今回は8トランジスタ(8TU)でSRAMセルを構成し、セル構造の最適化を行った。
最適化したセルについて、モンテカルロシミュレーションにより不良率解析を行った。動作電圧が0.2V、動作温度が25℃および85℃の条件で、8TUセル、10TUセルおよび、6TセルのULVRモードにおける疑似スタティックノイズマージン(QSNM)の分散を比べた。
この結果、8TUセルのQSNM分布は、他のセルに比べ高い電圧側に位置し、ノイズ耐性は最も強いことが分かった。特に、6σ不良率における8TUセルのQSNMは、10TUセルの2倍となった。動作電圧が0.16Vでも、8TUセルは極めて低い不良率を示した。
研究グループは、8TUセルを用い8kバイトのULVR-SRAMマクロ(M[8TU])を開発した。性能を比較するため、6Tセルや10TUセルを用いたマクロも設計し、待機時の電力を調べた。
開発したM[8TU]は、「スタンバイ(クロック有)」「スタンバイ(クロックゲーティング)」「超低電圧リテンション」「電源遮断」という、いずれの動作モードにおいても待機時の電力が小さかった。特に、動作モードがULVRの場合、従来セルを用いたSRAMマクロに比べ、待機時電力を93%も削減できることが分かった。0.16VのULVRモードでは、0.2VのULVRに比べ待機時電力をさらに23%削減できるという。
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