間もなく終わりを迎える2025年。そこで、EE Times Japan編集部のメンバーが、半導体業界の“世相”を表す「ことしの漢字」を考えてみました。
筆者が選んだ漢字は「不」です。
ことしは半導体業界の好調/不調のコントラストがより一層目立った年でした。
浅井記者の「偏」にも書いてありますが、AI用半導体/メモリと、それ以外のアナログ/パワーとで、成長率に大きな不均衡が生まれていました。これまでにないレベルだったと思います。NVIDIAの時価総額は2025年10月に世界で初めて5兆米ドルを突破しました。このように、生成AIなどの強い追い風によって高い成長を享受した前者の各企業に対し、後者に携わる企業は破産や開発中止、人員削減などに追い込まれました。
不意打ちを食らう出来事も多かったです。炭化ケイ素(SiC)ウエハー/デバイスサプライヤーの超大手であったWolfspeedの破産の他、アナログ/パワー半導体の受託生産を手掛けるJSファンダリの破産、ルネサス エレクトロニクスのSiCパワーデバイス開発の撤退、ニデックの不適切会計疑惑、オランダ政府によるNexperia接収など、こちらは枚挙にいとまがありませんでした。
サプライチェーン関連でも不透明感が漂います。米国の過酷な対中規制には“地元”である米半導体メーカーからも懸念の声が上がるほどでした。一方で、中国は規制の隙をつき、ロイターは2025年10月、「高度な半導体製造装置を法律に違反しない形で380億ドル相当購入していたことが明らかになった」と報じました。さらに12月には、中国が極端紫外線(EUV)露光装置の試作機を作り、動作させたとの一報も入りました。米国の規制が、中国の半導体開発/製造能力を底上げすることになるであろうことは予想できましたし、EUV露光装置の試作機完成も想定内とする声も聞かれます。ですが、思っていた以上にキャッチアップのスピードが速いという印象を受けました。SiCパワー半導体の開発も、ことしは中国は大きく前進しました。各分野における中国の台頭は、不屈の精神を感じさせます。
日本では明るいニュースもありました。10月には、ノーベル生理学・医学賞に大阪大学特任教授の坂口志文氏が、化学賞には京都大学特別教授の北川進氏が選ばれました。北川氏が開発した「金属有機構造体(MOF)」は、二酸化炭素の吸着や、半導体/エレクトロニクス業界でも課題となっている有機フッ素化合物系(PFAS)の除去にも応用できるそうで、大変興味をそそられます。受賞を報じたさまざまな記事からは、両氏の、想像できないほどの不断の努力が伝わってきました。基礎研究や要素技術の開発が長く長く大事にされる国であってほしいと強く思います。
また、個人的にはことしEE Times Japanが無事に創刊20周年を迎えられたことも、うれしい出来事でした(20周年特集ページ)。不遇の時代が長かった半導体/エレクトロニクス業界向けの専門媒体として、20年間続けてこられたことは、ひとえに読者の皆さまがいてくださったからです。AIの登場により、メディアも従来の在り方や存在意義が大きく問われることになりました。厳しい局面に来ていますが、不撓不屈の精神で次の10年、20年に向けて進みたいと思っています。
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