いろいろな解析を紹介しましたが、大事な説明を忘れていました。それは、「モデル」のことです。CMOSやバイポーラ・トランジスタなどの半導体デバイスは、抵抗やコンデンサ、インダクタ、依存電源を使った等価モデルに置き換えて、シミュレーションを実行します。この等価モデルがどの程度実際のデバイスと一致しているのかを、しっかり把握しておく必要があるのです。
回路シミュレーションを使った設計工程と、試作デバイスを使った実測結果を比べて特性が合わないといったトラブルは、等価モデルと実際のデバイスとの特性のずれが一因です。等価モデルは、温度や電源、製造バラツキ(絶対値や相対値)の影響も実際のデバイスと一致するように調整されています。ですが、その「度合い」を回路設計者は十分理解しておく必要があるということです。
回路の動作速度が速くなると、回路図には見えない部品の影響が大きくなってきます。つまり、寄生デバイスの影響です。寄生デバイスは、部品を配置したり、部品間を配線したりするレイアウト作業の後、ツールによって抽出します(図2)。手作業で、寄生デバイスを抽出することも可能ですが、時間がかかります。
これらの寄生デバイスの影響をあらかじめ考慮したアナログ回路を設計し、レイアウトした後のシミュレーションで大きな特性劣化が発生しないようにするのが、回路設計エンジニアの腕の見せ所と言えます。
最近ではパソコン用プロセッサの処理性能が高くなってきているので、シミュレータが出す答えがすべて正しいように錯覚してしまうことがあります。シミュレータは指示した通りに、入力したデータを基に計算するツールであって、指示内容や入力データに誤りがあった場合でも、そのまま何らかの答えを出力します。
シミュレータが出す答えが正しいかどうかは、ツールの操作や使い方が正しいかどうかではなく、自らが予測した結果と同じかどうかで判断するのです。そのためには、自分自身であらかじめ答えを予測しておく必要があります。つまり、自分自身で「設計」するのです。
回路シミュレータは、設計した内容が予測通りかどうかを確認するための道具であって、回路設計者に代わって設計してくれる道具ではないのです。このことをよく理解して使ってこそ、シミュレータの真価が発揮されるにではないかと日々思っています。
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