ARMベースのCPUとGPUを組み合わせたハイブリッド型スーパーコンピュータが登場するかもしれない。消費電力を従来の1/30に抑えつつ、エネルギー効率を10倍近く向上できるようになるという。
スペインの国立研究センターであるBarcelona Supercomputing Center(BSC)は、NVIDIAと提携してハイブリッド型スーパーコンピュータを開発する計画を発表した。NVIDIAのARMコア搭載CPU「Tegra」と、GPU(Graphical Processing Unit)「Tesla」をベースとした、エクサスケールレベルの性能の実現を目指す。
BSCは、「エネルギー効率を、現時点で最高レベルのシステムの2〜5倍に向上させることが短期的な目標である。最終的には、消費電力を現在のスーパーコンピュータアーキテクチャの1/15〜1/30に低減しつつ、エクサスケールレベルの性能を達成することを目指す」と語る。
BSCのプロジェクトは、このような非常に高い目標を掲げていることから、「EU(欧州連合)Mont-Blanc Project(モンブランプロジェクト)」と呼ばれている。今後は、エネルギー効率の高い組み込み/モバイル技術を用いたアプリケーションで何が実現できるのかを模索するとともに、スーパーコンピュータ向けARMアーキテクチャ用のソフトウェア開発を加速させていく。
プロジェクトを率いるAlex Ramirez氏は、「従来のシステムのほとんどは、CPUだけで40%以上のエネルギーを消費している。当プロジェクトで開発するアーキテクチャでは、エネルギー効率に優れたコンピュータアクセラレータと、組み込み/モバイル機器向けのARMプロセッサを採用する。2014年までに、従来に比べてエネルギー効率を4〜10倍に高める計画だ」と説明している。
NVIDIAでTeslaのマーケティングディレクタを務めるSumit Gupta氏は、「ARMプロセッサをクラウドサーバに活用する動きが活発化している今、スーパーコンピュータにARMプロセッサを採用するという発想は、一部で考えられているほど現実離れしたものではない。Hewlett Packard(HP)とCalxedaは、ARMベースのサーバ向けプロセッサを開発中だが、こうした動きが非常に重要になってくる」と述べる。
Gupta氏によると、グラフィックスプロセッサを使用するという技術は、スーパーコンピュータ分野においては、まだ初期の段階にあるという。しかし、既に高いレベルでの導入が始まっているだけでなく、それに対応したソフトウェアエコシステムの構築も進んでいる。
こうした動きを受けて、NVIDIAは、ハードウェアとソフトウェアの両方の要素からなる開発キットを用意する計画があることを明らかにした。ARMベースのクアッドコアCPUである「Tegra 3」に、アクセラレータとして機能する同社のGPUを組み合わせた構成になる。このキットのハードウェアの開発を担当するSECOによると、2012年前半には発表できる予定だという。ソフトウェアは、GPU向けの統合開発環境「CUDA」がサポートする。
NVIDIAは、GPU/CUDAを用いて最先端で並列処理の研究を行う機関を「CUDA Center of Excellence」に認定している。認定されている機関には米国のジョン・ホプキンス大学やスタンフォード大学などがあるが、今回、これにBSCも加わった。
BSCは、スペインのカタルーニャ工科大学と共同で高性能コンピュータの研究を手掛ける、スペイン国立のスーパーコンピュータセンターだ。欧州最高の計算速度を誇るスーパーコンピュータの1つ「MareNostrum」を保有する機関でもある。
BSCは最近、NVIDIAの「Tesla M2090 GPU」とクアッドコアCPUを合計256個搭載したコンピュータクラスタの開発に成功した。最高で186T(テラ)FLOPSの性能を実現するという。
【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】
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