眼球に装着したコンタクトレンズにテキストメッセージを映し出したり、実際の風景に仮想情報空間を重ねて表示したり――そんなサイエンスフィクション(SF)のアイテムが現実になるかもしれない。
フィンランドのAalto Universityと米国のUniversity of Washington, Seattleの研究者からなるグループは、ハンズフリーのリアルタイムディスプレイ機能を備えたコンタクトレンズの試作品を開発し、生体試験を実施したと発表した。
同研究グループは、試作したこのコンタクトレンズを生きたウサギの眼球に装着して動作させ、その安全性を確かめた。今のところこのコンタクトレンズのディスプレイは、わずか1画素しかない。しかし同グループは今回の成果によって、これを数百画素まで高められる可能性を実証できたと考えている。画素数がそのレベルまで高まれば、短い電子メールやテキストメッセージを眼球上に直接表示できるようになるという。
このコンタクトレンズには、アンテナとICチップ、青色LEDがそれぞれ1個ずつ内蔵されている。エネルギーハーベスティング(環境発電)技術を応用してこれらの回路を駆動する仕組みだ。すなわち外部の電力源から、アンテナを介して無線で電力を受ける。ICチップは、500×500μm2のシリコン基板上に整流器と蓄電用コンデンサ、LED駆動回路などを集積したものだ。アンテナから供給される高周波電力を整流し、その出力でコンデンサを充電して、蓄えた電力でLEDを発光させる。750×750μm2の透明サファイア基板の上に、InGaN/GaN構造でピーク波長が475nmの青色LED素子を形成した。
このコンタクトレンズの多画素化を進めれば、コンピュータ処理した視覚情報を現実の世界にオーバーレイ表示して、ゲーム機器やナビゲーションシステムなどに応用できるようになるという。その他、装着者の体内に埋め込まれたバイオセンサーに接続して、ブドウ糖(グルコース)や乳酸塩の濃度に関する最新情報を表示するといった用途への可能性も広がる。
同グループによると、このコンタクトレンズで重要な課題の1つとされていたのは、人間の眼球の最小焦点距離である。数cmが必要なため、コンタクトレンズに投影された対象物は近過ぎて解像できない。コンタクトレンズに映し出される情報が全てぼやけて見えてしまう。そこで同グループは今回、厚みがある既存のレンズと比べてはるかに薄いフレネルレンズ群を組み込んで、網膜上に投影された画像に焦点を合わせられるようにして、この課題を解決した。
同グループはまず自由空間でこのコンタクトレンズを試験して、その後、動物実験の厳格なガイドラインに従って、ウサギの眼球に装着する試験を実施し、角膜や体全体に与える影響を検証した。さらに、視覚化技術の検証の他、ウサギの眼球に蛍光染料を塗布して、磨耗や、熱による炎症などについても試験した。
University of Washingtonで電子工学科の教授を務めるBabak Praviz氏は、「ワイヤレス給電の伝送可能距離を延ばすために、アンテナと整合回路の設計を改善するとともに、伝送周波数を最適化する必要がある。ただわれわれの次の目標は、コンタクトレンズ上にあらかじめ設定したテキストを映し出すことだ」と述べている。
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