製造部門の処置さえ決まれば、3社のシステムLSI事業統合に向けた準備は整ったかのように見える。しかし、実際の統合に向けては、今後もさまざまな難題が立ちはだかる。
例えば、ルネサス エレクトロニクスのSoC事業にとって、高シェアを誇る車載情報機器向けや、Nokiaのモデム事業の買収によって今後の成長が見込めるモバイル機器向けは、同社の成長戦略の要である(関連記事3)。これら2つの製品分野の設計開発は、2010年12月に設立した子会社のルネサス モバイルが担当している。そして、45/40nmプロセス以降の先端品の量産は、TSMCとGLOBALFOUNDRIESに委託する方針も決まっている。つまりSoC事業のうち、車載情報機器向けとモバイル機器向けは、設計部門の独立と製造部門の切り離しという今回の統合案が目指す方向性とほぼ同じことを自社内で行っているのだ。不採算の民生用機器向けで撤退を表明している以上、新たな統合会社に移管するメリットがあるのは産業用機器向けだけになる。
富士通セミコンダクターのシステムLSI事業は、デジタルカメラや、携帯電話機、車載情報機器向けのグラフィックス関連ICが中心である。同社は、2009年8月からファブライト戦略を進めてきたこともあり、設計部門と製造部門の分割はスムーズに進むだろう。維持コストが大きな負担となっている三重工場の売却も適正価格であれば拒否する理由はない。ただし、TSMCと結んでいる40nmプロセス以降の製造委託契約は、見直しの必要があるかもしれない。
今回の統合案において、赤字部門の切り離しという意味で最も大きなメリットを得るのがパナソニックだ。同社の半導体事業は、ルネサスや富士通セミコンダクターが業績を回復させた2011年7〜9月期も前期比でマイナスとなるなど極めて厳しい状況にある。重荷になっているのは、自社製テレビを中心に出荷しているデジタル家電向けシステムLSIだ。このため、2011年10月には、システムLSI事業のファブレス化を進めるとともに、魚津工場などの先端ラインを減損処理する方針を発表している。
こういった各社の事情の他に、それぞれの設計環境が異なっていることも統合の課題になるだろう。そして、統合するのであれば、Broadcom、Qualcomm、NVIDIA、MediaTekなど、世界に並み居るファブレス企業に打ち勝てるような体制構築と戦略が必要になる。また、3社のシステムLSI事業で大きな比率を占めるASIC市場の置き換えを目指すFPGAベンダーとの競合も焦点になる。
エルピーダメモリ、ルネサス テクノロジ、そしてルネサス エレクトロニクス。これらの国内半導体メーカーの合併が成功だったかどうかはともかく、合併の際に公的資金を使った事例はない(ただし、エルピーダメモリは、2009年6月に産業再生法に基づく公的資金が注入されている)。しかし今回の統合案で、「産業革新機構」という名の公的資金を投入するのであれば、成功のための道筋をしっかりと示す必要があるだろう。
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