32ビット車載マイコンとして広く利用されている「V850」と「SuperH」を展開するルネサス エレクトロニクス。40nmプロセスを採用した「RH850」は、さらなる高性能化/低消費電力化を実現するとともに、V850とSuperHの統合を目指している。
ルネサス エレクトロニクスは2012年2月29日、自動車の制御系システム向け32ビットマイコンの新ファミリ「RH850」を発表した。「車載マイコンとしては業界最先端」(同社)となる40nmプロセスを採用している。90nmプロセスで製造した同社の従来品と比べて、同一動作周波数における処理性能を35%向上するとともに、消費電力を26%低減した。また、機能安全、高速演算、入出力管理という3種類の処理に対応するヘテロジニアスなマルチコア構成が可能な点も特徴となっている。2012年初秋に、パワートレイン向けとなる第1弾製品のサンプル出荷を始める。量産開始は2014年を予定している。当初の生産は那珂工場(茨城県ひたちなか市)で行う計画だ。
同社は、2010年4月に、NECエレクトロニクスとルネサス テクノロジが合併して誕生した。このため、2社が合併前からそれぞれ独自に展開していたマイコン製品群をそのまま引き継いでおり、これらの統合が課題となっていた。その後、8ビット/16ビットマイコンについては、2010年11月に16ビットマイコン「RL78」に統合する方針を発表している(関連記事1)。
今回のRH850は、32ビット車載マイコンとして広く利用されている、NECエレクトロニクスの「V850」と、ルネサス テクノロジの「SuperH」の統合を目指したものだ。同社執行役員でMCU事業本部の事業本部長を務める岩元伸一氏は、「2010年末時点における、当社のマイコンの世界シェアは29%とトップだ。車載マイコンに至っては44%ものシェアを獲得している。RH850は、今後もさらに高度な機能が求められる自動車の制御系システム向けに開発した。新商品の投入により、車載マイコンのシェアを将来的には50%まで伸ばしたい」と語る。
なお、車載用途以外の市場に向けた32ビットマイコンについては、2009年3月に発表した「RX」の展開を強化する。RXでカバーできないような高い処理性能が必要な用途には、V850とSuperHを継続して販売する方針だ。
先述の通りRH850は40nmプロセスを採用している。Freescale Semiconductorが55nmプロセス、Infineon Technologiesが65nmプロセスを採用した32ビットマイコンをそれぞれ2012年前半にサンプル出荷する予定だが、これらよりもさらに微細なプロセスとなっている。また、内蔵フラッシュメモリの読み出し速度は、「競合他社と比べて3倍近い」(岩元氏)という120MHzを実現した。内蔵フラッシュメモリの最大容量も、ルネサスの従来品の2倍となる8Mバイトに増やした。
プロセッサコアはV850をベースに開発した。動作周波数はシングルコアの場合で64〜320MHz。最大動作周波数は、90nmプロセスで製造した同社従来品の1.6倍に引き上げた。また、同一動作周波数における処理性能については、同社従来品と比べて35%高く、Freescale Semiconductorの55nmプロセスで製造した製品と比べても15%高いとしている。この他、車載システムで頻繁に発生する割り込み処理に対する応答性能を高めるために、複数のレジスタを使って一括で退避/復帰する機能などを組み込んだ。消費電力についても、微細化や、リーク電流の小さいトランジスタ構造の採用によって大幅に低減している。RH850の消費電力は、競合他社の90nmプロセス品比で72%、同社従来品比で26%減らしたという。待機時の消費電力も低減している。
RH850は、異なる役割を果たす複数のプロセッサコアを用いた、いわゆるヘテロジニアスなマルチコア構成が可能である。RH850で利用できるプロセッサコアの種類は3つある。1つ目は、自動車の機能安全規格ISO 26262に対応するために、プロセッサの動作の信頼性を高めるのに必要な機能安全コアである。2つ目は、高速で演算処理を行うことに特化した高速演算コアだ。3つ目になるのが、プロセッサコアと周辺回路の間の入出力処理を管理するのに用いる入出力管理コアである。プロセッサコアの回路構造は、機能安全コアと高速演算コアは同じで、入出力管理コアのみ機能安全と高速演算よりも性能を抑えたものとなっている。ただし、3種類のプロセッサコアの命令セットは共通である。
また、機能安全コアについては、ISO 26262で最も高いレベルの安全性を要求するASIL Dに対応できるように、2個のプロセッサコアが互いの動作を監視するデュアルロックステップコア(関連記事2)を選択することが可能だ。つまり、RH850では、従来の車載マイコンと同様に1個のプロセッサコアを搭載するシングルコア構成から、機能安全に2個、高速演算に1個、入出力管理に1個、計4個のマルチコア構成まで対応していることになる。
周辺機能IP(Intellectual Property)については、RL78やRXなど、同社の全てのマイコンで仕様を共通化した「基本的IP」と、エンジン制御やモーター制御などに特化した「差異化IP」に分けて提供することとした。岩元氏は、「顧客が開発している車載システムに合わせて、プロセッサコアの構成やフラッシュメモリの容量、周辺機能IPをスケーラブルに選択し、ASSP的に製品提供することが可能なマイコンプラットフォームになった」と述べる。
RH850の統合開発環境としては、RL78やRXにも利用されている「CubeSuite+」を提供する。V850やSuperHなど、既存の車載マイコンで使用していた組み込みソフトウェアの再利用については、アプリケーションノートなどの文書によるサポートに加えて、ルネサスのアプリケーションエンジニアによる技術サポートで対応する。「CubeSuite+は、V850の統合開発環境である『CubeSuite』だけでなく、SuperHの統合開発環境である「HEW」に対応する機能も搭載している。V850やSuperHで使用していた組み込みソフトウェアをRH850で再利用する際にも、CubeSuite+が役立つだろう」(岩元氏)という。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.