――米国で電気自動車が普及するためには何が必要だとみていますか。
サクストン氏 2つあるでしょう。1つは、もっとたくさんのモデルが投入され、消費者の選択肢が増えることですね。
もう1つは消費者の啓発です。消費者はメディアで報道されるネガティブな情報を真に受けて「なんだ、100マイル(160km)しか走行できないのか」と思い込んでいますが、条件によってはそれ以上の走行が可能です。こんなデータがあります。米国人の60%は2台以上の車と車庫を持っていて、70%は通勤で車を運転する距離が1日40マイル(64km)以下にとどまります。これを元に考えれば、2台のうちの1台を電気自動車に置き換えることは十分に可能です。電気自動車を持っているからといって、どこに行くにも電気自動車を使わなければいけないというわけではありません。
シュウィッターズ氏 車を1台しか所有しない人たちは、シボレー・ボルトやトヨタ自動車の「プリウスPHV」などのプラグインハイブリッド車を選べばよいのです。こう考えれば、全ての人が何らかの電気自動車を手にできる時代になっています。「電気自動車をひとたび購入したら、二度とガソリン車を使わない」と考えてしまうとハードルが高くなりますが、両方を当面は使い分けていくと考えれば購入しやすくなるでしょう。
――自動車メーカーへの要望を聞かせてください。
サクストン氏 自動車メーカーの多くはまだ、電気自動車を真剣に捉えていません。一方で、日産リーフは年に1万台を売り上げています。他の自動車メーカーは売り上げを奪われていき、5年後には後悔することになるでしょう。そうした自動車メーカーが日産の挑戦を受け止めることを願います。
シュウィッターズ氏 電気自動車はまだ新しい市場です。人々が高い車を買うのか、安い車を買うのか、2台目として短い走行距離で良いのか、それとも長い走行距離が必要なのか、答えが出ていない疑問が多くあります。このため、自動車メーカーの電気自動車への対応はゆっくりです。しかし、中には対応が遅過ぎるメーカーもあります。慎重に事を進めるあまり生産台数を限定し、例えば300台しか生産しないという方針では、車の値段は必然的に高くなってしまう。それでは、既に量産体制を築いている日産リーフには到底かないません。不確かな要素が多いですが、とにかく今、着手しなければならないのです。
――ワシントン州では先ごろ、電気自動車のオーナーに対し、ガソリン税の代替として年間100米ドルの税金を課す法案が議会を通過しました。これに関してコメントをお願いします。
シュウィッターズ氏 この法案が州知事に承認されれば、ワシントン州としては初めて、電気自動車に特有の税金が課されることになります。ただ、このような法案を施行するのは少々早いと思います。実際、この法案を支持している人たち自らが実施した調査によると、電気自動車のオーナーの数があまりにも少ないため、現状ではこのプログラムを実施するためのコストの方が税収を上回るという結果が出ています。
一律100米ドルというのも問題です。ガソリン税の良いところは自動的にガソリンの節約を促すこと、そしてガソリンをより多く使う人がより多くの税金を支払うシステムです。一律課税はこの目的を果たしません。
電気自動車のオーナーはもちろん、道路税を支払わなければいけないことは理解しています。ただ、もっと良い方法を望んでいるだけです。電気自動車オーナーのほとんどは、車両の重さや走行距離に応じて税金を支払うシステムを支持しています。これなら道路を摩耗させる要因に対して課税されるため、公平性が最も高いといえるでしょう。
サクストン氏 走行距離の確認に関しては、ライセンスの更新時にオドメーター(積算走行距離メーター)を読み取ることなどで対応できます。排ガス検査と同時にこれを確認することもできるでしょう。
理想としては、同様の重量と走行距離による税金を、電気自動車のみではなく、ガソリン車を含めたすべての車に課してほしいですね。税制上、ガソリン代は既にかなり優遇されていますから、ガソリン代に対する税金は現状維持で良いと思います。
登丸しのぶ(Shinobu T. Taylor)
フリーランスのテクノロジジャーナリスト。ITmediaをはじめとする複数のメディアに、ハイテク業界の展示会リポートやPC/ガジェット関連のコラムを数多く寄稿する。1997年からガートナー ジャパンで市場調査リポートの編集に携わり、2001年から半導体産業や薄型ディスプレイ産業などをカバーするエレクトロニクス業界誌の電子ジャーナルで記者を務めた。2009年から米国ワシントン州レドモンド市在住。
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