ビデオゲームや車載向け安全システムにも採用が始まっているコンピュータビジョンは、プロセッサベンダーにとって、大きな成長をもたらす市場となりそうだ。
組み込みプロセッサがアプリケーションを形作るのか、あるいは、アプリケーションが組み込みプロセッサを形作るのか?
実際には、どちらも正解である。デジタル信号処理を駆使する、無線通信や画像圧縮向けのアプリケーションでは特にそうだろう。こうしたアプリケーションは、十分な性能だけでなく、低消費電力や低価格といった要素も備えたプロセッサがなくては、実用化が難しい。アプリケーションは、そうしたプロセッサの開発が前提となるのである。その後、市場が成長すれば、競合他社や投資を呼び込むようになり、さらにこうしたアプリケーション向けのプロセッサの開発が進むというわけだ。
Viterbi(ビタビ)復号も、画像圧縮処理向けのDSPやCPUも、そのような流れを経て市場に浸透してきた。
「コンピュータビジョンのアプリケーションも、こうした“好循環”の恩恵を受けられるのではないか」――。数年前、著者と同僚はこのように考えた。著者が所属しているBDTI(Berkley Design Technology Inc.)*1)では、それまで20年近くにわたり、デジタル信号処理向けの組み込みプロセッサを活用し、評価も行っていた。
コンピュータビジョンは、ここ数十年間、ファクトリーオートメーションをはじめとする用途に用いられてきたが、最近は、ビデオゲームや車載向け安全システムといった量産品にも採用が始まっている。そうした動向を受けて、プロセッサベンダーも、組み込みコンピュータビジョンのアプリケーションに注目し始めた。そのようなベンダーは、視覚処理に特化して設計したコプロセッサを搭載するなど、同アプリケーションを狙ったプロセッサの開発に取り組んでいる。
なぜプロセッサベンダーが組み込みコンピュータビジョンのアプリケーションに積極的なのか、その理由は単純だ。“視覚を備えたマシン”は、多くの用途や市場に訴求力のある製品をもたらすからだ。例えば、車載向け安全システムを例にとると、交通事故で命を落とす人の数は毎年100万人以上に及ぶが、コンピュータビジョンを備えた安全システムがあれば、事故を防いで何千人もの命を救えるようになるかもしれない。
また、組み込みコンピュータビジョンは、これまで長きにわたり、家電分野の“弱点”とみなされてきた、人間とマシンの交流を改善すると期待されている。リモコンを探し回らずとも、テレビを数秒間見つめるだけで、テレビの電源がつく。シンプルなジェスチャでチャンネルを切り替えられる。そんな世界を想像してほしい。コンピュータビジョンを備えたテレビなら、そういったことも実用化できる可能性が高い。米国の市場調査会社であるIMS Researchは、コンピュータビジョンを備えた機器の出荷数が、2015年までには年間30億台以上に達すると予測している。
【翻訳:青山麻由子、編集:EE Times Japan】
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