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「無線センサーネット+環境発電に無限の可能性」、LinearのCEOが見解ビジネスニュース 企業動向

アナログIC大手で、環境発電(エネルギーハーベスティング)向け電源ICも供給するLinear Technologyは、無線センサーネットワーク用LSIメーカーのDust Networksを買収した狙いについて説明した。2012年11月29日に東京都内で開催した報道機関向け説明会において、来日中のCEOが語った。

» 2012年11月30日 18時40分 公開
[薩川格広,EDN Japan]

 「今後市場として大きく成長するアプリケーションは何かを検討した。その結果が、無線センサーネットワークだった」――。高性能アナログICを得意とする米国の半導体メーカーLinear Technology(リニアテクノロジー)でCEO(最高経営責任者)を務めるLothar Maier氏は、2012年11月29日に東京都内で開催した報道機関向け説明会に登壇し、無線センサーネットワーク用LSIを手掛ける半導体メーカーDust Networksを買収した狙いについて説明した。

 LinearはDustを2011年12月に買収したが、創立から30年(当時)にわたる同社の歴史においてこのような事業買収は初めてだったという。例えば以前に、無線通信向けの高周波信号処理ICの市場に新たに参入した際には、同領域で経験を積んだ設計者を採用し、自社内で製品を設計した。しかし今回はそうしたアプローチはとらず、既に完成された製品として無線センサーネットワーク用LSIを供給していたDustを買収することでその製品ラインアップを自社に取り込んだ。

Lothar Maier氏 2012年11月29日に東京都内で開催した説明会で登壇したLothar Maier氏

 これについてMaier氏は、「今後市場として大きく成長するアプリケーションは何か、さらに、そのアプリケーションに向けてどのような製品を供給すべきかを検討した結果だ」と語った。すなわち、産業分野の計測/監視アプリケーションに向けた無線センサーネットワークの市場が今後大きく成長し、その市場の要求にDustの製品が合致していると判断した。

 加えて、Dustの無線センサーネットワーク用LSIに、Linearが既に製品化している環境発電(エネルギーハーベスティング)向け電源ICを組み合わせれば、アプリケーションの応用範囲がさらに拡大すると考えた。外部電源を供給せずに長期間にわたって稼働する無線センサーノードを実現できるので、「(アプリケーションの適用範囲としては)無限の可能性を秘めており、将来のビジネスチャンスが極めて大きい」(同氏)との見解を示す。

無線センサーネットと環境発電を組み合わせる 無線センサーネットと環境発電を組み合わせれば、応用範囲は広大になるという。出典:Linear Technology (クリックで画像を拡大)

高い信頼性・耐障害性と低い消費電力を両立

 Dustが開発した無線センサーネットワーク用LSIの特長は、高い信頼性と耐障害性を確保しつつ消費電力を低く抑えていることだ(参考記事:無線センサーネットワーク用LSI、信頼性・耐障害性と低消費電力を両立)。Dustが旧来から手掛けていたメッシュ型無線ネットワーク技術「SmartMesh」に基づいており、無線通信環境が劣悪な状況でも高い確実性でデータを伝送することが可能な、信頼性の高いメッシュネットワークを構築できるという。センサー端末同士が連携して自律的にネットワークを形成したり、自己修復したりする機能を備える上、無線通信の周波数を15チャネルでホッピングすることで、高い信頼性と耐障害性を確保している。

 Maier氏は、産業分野の計測/監視アプリケーションにおける各種のネットワーク方式を比較し、Dustのメッシュ型ネットワークの有意性を訴えた。「有線ネットワーク方式は、高い信頼性を確保できる半面、計測/監視対象物への据え付けのコストが高くつく上、いったん据え付けてしまうと変更が難しい。しかも、消費電力が大きくなる傾向があった。ポイントツーポイント接続の一般的な無線ネットワーク方式は、これらの課題はクリアできるものの、信頼性が低いという大きな難点を抱えている。両方の問題点を解消するのがDustのメッシュ型無線ネットワークだ。例えば消費電力については、他の方式に比べて1/5〜1/10と大幅に低い」(同氏)。

図2図3 Linear Technologyは1年前の2011年12月にDust Networksを買収した(左図)。Dustのメッシュ型無線ネットワーク方式は、旧来方式の課題を全て解決できるという(右図)。旧来の有線・無線の2つのネットワーク方式それぞれの利点(緑色の項目)の“良いとこどり”をしたのがDustの無線ネットワーク方式であり、旧来方式の弱点(赤色の項目)が解決されていると説明した。出典:Linear Technology (クリックで各画像を拡大)

 具体的なアプリケーションとしては、まず、旧来の有線ネットワークを無線化する用途を挙げた。産業分野のプロセス監視/制御や、石油探索、微粒子/ガス監視などである。さらに、タービンやパイプラインなどの監視、公共駐車場のインテリジェント運営システム、橋梁やトンネルなどの構造物の健全性監視、交通量制御システムといった応用や、太陽光発電所の監視/制御やデータセンターの暖房/換気/空調制御、ビルのインテリジェント制御などの用途が考えられるという。

図9図10 旧来の有線ネットワークを無線化する用途(左図)や、公共駐車場のインテリジェント運営システムなどの応用(右図)があるという。出典:Linear Technology (クリックで各画像を拡大)

2012年度の業績は“過去最高”の前年度に届かず

 この他に今回の説明会では、2012年度(2011年7月〜2012年6月)の決算のポイントも解説した。同社は前年度(2011年度)に、売上高、1株当たり利益、営業利益という3つの指標全てにおいて「過去最高」を達成していたが、2012年度はそれらをいずれも下回る結果に終わっている(参考記事:「11年度はあらゆる面で創業以来最高」、Linear TechnologyのCEOが来日会見)。具体的には、売上高が12億6700万米ドル(前年度は14億8400万米ドル)、1株当たり利益が1.7米ドル(前年度は2.5米ドル)、営業利益が5億8200万米ドル(前年度は7億6700万米ドル)だった。これについてMaier氏は、「マクロ経済が不透明な中で、良くやっている」と総括しており、大手アナログ半導体メーカーの競合他社と3年間の年平均成長率を比較して、自社が9.4%と最も高いのに対し、最も近い他社でも8.2%であり、アナログ半導体の世界市場全体では5.9%にとどまると指摘した。

図6図7 左図は、2008〜2012年度における売上高、営業利益、1株当たり利益の推移である。グラフの左側の数字が年度、右側の数字が金額(単位は百万米ドル)。右図は、アナログ半導体メーカー各社と市場全体それぞれの3年間にわたる年平均成長率である。出典:Linear Technology (クリックで各画像を拡大)

 売り上げを地域別に見ると、同社が本社を置く北米“以外”の地域の比率が年々高まっているという。2012年度については、デザインウィン(設計部門による採用)ベースで北米が44%、欧州が25%、日本が17%、その他アジア地域が14%であり、仕向け地ベースではアジア地域が40%、北米が26%、欧州が19%、日本が15%という順番になる。

図5図8 左図は、売上高の地域別比率で、上側はデザインウィン(設計部門による採用)ベース、下側が仕向け地ベースの数字。右図は、アナログ半導体の全市場と、そのうちの産業向け市場、車載向け市場の3つについて、3年間にわたる年平均成長率を示した。Linear Technologyと各市場全体の成長率を比較し、同社の伸び率がいずれも高いとしている。出典:Linear Technology (クリックで各画像を拡大)

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