ホワイトスペースを利用する無線ブロードバンド技術である“スーパーWi-Fi”を、米国の大学が試験的に導入した。賛否両論が巻き起こっているスーパーWi-Fiが普及するきっかけとなるのだろうか。
米国のウェストバージニア大学(West Virginia University:WVU)は2013年7月、十分な通信サービスが提供されていない地方へのブロードバンドサービスの提供を推進する計画を発表した。WVUは、米国の大学で初めて、低周波数帯のホワイトスペースを活用して、構内や近隣エリアでワイヤレスブロードバンドサービスを提供するという。なお、ホワイトスペースとは、デジタル放送に移行したテレビ局が使用しなくなった空き周波数帯を指す。
WVUは、「Advanced Internet Regions(AIR.U)」とパートナシップを結び、パイロットプログラムを実施している。AIR.Uは、計500以上の高等教育機関やハイテク企業などが参加するスーバーWi-Fiの推進団体で、GoogleやMicrosoftも加盟している。
AIR.Uが目指しているのは、さまざまな大学とその周辺コミュニティで試験的なネットワークを構築し、持続可能な次世代ワイヤレスネットワークを迅速に展開するためのロードマップを作成することだ。2012年に発表した資料では、「ホワイトスペースに必要な機器を、2013年中に広く利用できるようにしたい」と述べている。
実証試験の第1フェーズでは、WVUとダウンタウンを結ぶトラムカーで、学生と教員が自由に使える公共のWi-Fiサービスを提供する。このトラムカーシステムは、PRT(Personal Rapid Transit)と呼ばれ、73台のトラムカーで1日に約1万5000人の乗客を運ぶ。
WVUのCIO(最高情報責任者)を務めるJohn Campbell氏は、プレスリリースの中で、「ウェストバージニアでは、ブロードバンドネットワークの整備が求められてきた。WVUをテストサイトとして、ウェストバージニアの多くのコミュニティに高性能のワイヤレスブロードバンドサービスを提供したい」と述べている。
スーパーWi-Fiは、都会と地方の両方で新しい長距離ワイヤレスインターネットサービスの実現を目指して、米連邦通信委員(FCC)が作った用語である。
しかし、スーパーWi-FiはWi-Fiの技術を利用していない上に、Wi-Fi Allianceにも承認されていないことから、「スーパーWi-Fi」という用語に異論を唱える声も挙がっている。Wi-Fiは2.4GHz帯を使用するが、スーパーWi-Fiは、Wi-Fiとは別の周波数帯域であるホワイトスペースを利用する。現在、スーパーWi-Fiの規格として、IEEE802.11afとIEEE802.22がある。
“Wi-Fi”だけでなく、“スーパー”という言葉にも批判がある。Wi-Fiの最新規格であるIEEE 802.11acは、基本的な構成で1Gビット/秒に近い伝送レートを実現するように設計されている。これに対し、スーパーWi-Fiは、最大で29Mビット/秒しか伝送できないと言われている。ただし、スーパーWi-Fiは、伝播特性に優れた周波数帯域を使用するので、電波の到達距離が長く、厚い壁でも通過できるという利点がある。
FCCは2012年9月に、周波数帯を競売にかける計画を発表した。これをめぐり、無線業界や報道/放送関係者の間では、ホワイトスペースの有効な活用法などについて議論が巻き起こり、混乱が生じた。
ホワイトスペースを活用した新たな事業展開を狙って投資している企業の中には、携帯電話通信事業者のように免許を保有する企業と、Wi-FiやBluetoothをベースにサービスを提供する免許を持たない企業がある。
このうち、スーパーWi-Fiの反対派は、「免許なしで利用できるようになるホワイトスペースは、帯域幅の不足を解消するために使うべきだ」と主張している。
一方、スーパーWi-Fiの支持派は、「AIR.Uが推進する取り組みは、ブロードバンドネットワークが整備されていないコミュニティにとって、ホワイトスペースの最善の利用策である」と主張している。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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