東京大学物性研究所の徳永将史准教授らの研究グループは、産業技術総合研究所(産総研)などの協力を得て、将来の磁気メモリ材料開発につながる電気分極成分を発見した。この成分は室温で不揮発性メモリ効果を示すことも観測した。
東京大学物性研究所の徳永将史准教授らの研究グループは2015年1月、産業技術総合研究所(産総研)などの協力を得て、将来の磁気メモリ材料開発につながる電気分極成分を発見したと発表。この成分は室温で不揮発性メモリ効果を示すことも観測した。
原子レベルでメモリ機能を実現することができる材料として、磁性と強誘電性の特長を併せ持つマルチフェロイック物質が注目されている。ただ、これまで発見された多くのマルチフェロイック物質が−200℃以下という極低温の環境でしかその特性を示さない。その中で唯一、室温でマルチフェロイック特性を示す物質が「ビスマスフェライト」といわれている。
徳永准教授らの研究グループは、産総研で作成されたビスマスフェライトの単結晶試料を用いて、パルスマグネットを使った強磁場下で、磁気的な電気的応答を測定した。この結果、結晶のc軸と平行な電気分極とは別に、「これと垂直な電気分極が存在する」こと、「この新たな電気分極成分が磁場によって制御可能である」ことを発見した。
ビスマスフェライトのマルチフェロイック状態は、300℃以上でも続くことが確認されているが、今回の研究では少なくとも27℃の室温状態でメモリ効果が観測されたという。しかも、ビスマスフェライトの電気分極は1テスラ程度の磁場に近づいても変化しないため、日常生活の環境下では安定に動作することが分かった。
さらに、ビスマスフェライトは安定な3つの磁気構造を持っている。この状態を活用すると3値メモリを実現することができ、一般的な「0」と「1」で記憶する2値メモリに比べて記録密度を高めることが可能となる。メモリ構造としても比較的単純なことから、量産性にも優れているという。
今後は、実際のメモリとして動作させるために必要となる「電場による電磁秩序」や「電気分極の制御とその直接観測」などについて、研究を進めていく計画である。
なお、今回の研究は徳永准教授らの研究グループや電総研の他、福岡大学、上智大学、青山学院大学が協力して行った。
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