DSPコアのSHARC+は、従来のSHARCと互換を保ちながら、パイプライン構造の見直し、命令効率の向上を図り、従来コアより性能を向上させた。処理能力はコア当たり、5.4GFLOPSで従来コアの2倍に。電力効率も改善し1W当たりの処理能力(周囲温度25℃時)は5.7GFLOPと従来比1.3倍に向上した。周囲温度105℃の高温環境下では、1W当たり3.3GFLOPSと従来比2.4倍に大きく改善している。
さらに従来SHARCプロセッサにも搭載していたフィルタリング処理(FFT/逆FFTなど)用ハードウェアアクセラレータも改良した。「これまでのFFT/逆FFTアクセラレータは、DSPコアへの負荷集中を避けるための位置付けで搭載していた。一方で、新世代品のアクセラレータは、ハードウェアの利点を生かし、DSPコアよりも高速、低消費電力に処理を行うためのアクセラレータとして搭載した」(同社)。FFT/逆FFT用アクセラレータは、18GFOLPS相当の処理能力を持ち、DSPコアで処理した場合よりも5倍高速で、電力効率は10倍高くなるという。他にもアクセラレータとして、セキュリティ暗号化エンジンなどを搭載した。
「CPUコアの搭載、DSPコア、アクセラレータの強化により、従来のSHARCプロセッサとマイコンで構成した場合に比べ、新世代SHARCプロセッサは電力効率を2〜5倍程度高められる。FPGAで構成する場合と比較しても、低消費電力のシステムを構築できる利点がある」(同社)とする。
ADSP-SC58xは5種類の製品があり、最上位製品「ADSP-SC589」は、10/100Ethernet(MAC)やPCIeに対応し、CPUコアと2つのDSPコアの動作周波数450MHz。他に一部のペリフェラルを省略した製品やシングルDSPコア構成の製品をそろえる。価格は、ADSP-SC589で1000個受注時33.96米ドルとなっている。また、CPUコアを搭載せず、デュアルSHARC+コアのみの構成の「ADSP-2158x」(3製品)も同時にラインアップする。
いずれの製品も現在、2015年6月17日からエンジニアリングサンプルを出荷し、量産は2016年半ばを予定している。開発環境としても、ADSP-SC589を搭載する評価用ボード「ADSP-SC589 EZ-KIT-Lite」などを用意。同社では期間限定で、同評価ボードにエミュレータと1年間の使用権のついた統合開発環境「CrossCore Embedded Studio」を同梱し、495米ドルで販売するキャンペーンを実施している。
これまでSHARCプロセッサは、業務用オーディオ機器を中心に採用を伸ばしてきた。「ただ、産業機器や車載機器用途でも、固定小数点DSPではなく浮動小数点DSPを求めるニーズが高まり、SHARCの採用が増えてきた。新世代SHARCプロセッサは、産業用イーサネットやCANなど車載イーサネットの制御も含め、省スペース、低コスト、高い電力効率で実現できる製品となった。業務用/民生用オーディオ機器だけでなく、産業機器や車載機器など幅広い用途に対応するプロセッサとして提案していきたい」(同社)との方針だ。
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