ヤツらは全てのドメイン名を消去して、ネット上の店舗の全てを消滅させました。
―― そこまでやるか。
いわゆる、ネットサイトの夜逃げバージョンです。
ドメイン名が分っていれば、そこからIPアドレスにさかのぼってプロバイダを特定し、警察からユーザー名簿を提出させればいい―― くらいのことは知識として知っていました(実際、そういう逆探知の実験をやったことがあります)。
しかし、知識として知っていることと、現実の詐欺師にたどり着くことができるかどうかは、全く別の話です。
詐欺サイトが海外のサーバで運用されているだろうことは確実でしょうし、詐欺師の居所が海外にあれば、原則として国内法では裁けません(最近はこんな判決も出てきていますが)。
DNSサーバのオーナー登録が、ずさんなことは、“kobore.net”というドメイン管理者であるこの私自身が、よく知っています。詐欺目的のドメイン情報が当てになるわけがなく、この情報から犯人にたどりつくことは絶望的と思えました。
と、私は、この時点で、ハタと気がついたのです。
―― 何もできることがない。
それは、これまで、ネットワークのプログラムを何本も作成し、特許や論文を執筆してきたネットワーク研究者を自称するこの私が、このネット詐欺に対して、全く打つ手がないと悟った瞬間だったのです。
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江端智一(えばた ともいち)
日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。
意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。
私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。
本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。
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