これら(1)〜(3)から導き出せる、ネット詐欺の可能性に思い当たった時の最適戦略は、明らかです。
―― 数秒を争う速度で、振込先の銀行に口座の凍結を要請する
です。
また、出遅れたとしても、とにかく銀行に届け出ておけば、凍結口座に残っているお金のいくらかを取り返せる可能性があります。
そして、最悪にして最低の戦略は、
―― どうせ小さい金額だから、「今回は、いい勉強になった」と自分にいい聞かせて、忘れてしまう
です。
実際、ネット詐欺の中でもネット通販詐欺の平均被害額は、1万4000円程度という話です。なんとも微妙な値なので、そう考えてしまっても仕方がないことかもしれませんが。
行員:「江端様。では後日、必要書類を送付させていただきます」
江端:「はい、分かりました。お待ち致します。書類はいつごろ届きますか」
行員:「半年後くらいになります」
江端:「半年後?」
これから、被害を申し出てくる人を待つ必要もあるし、他の機関(預金保険機構など)などとの手続きがあるから仕方がないのかもしれませんが、かなり長いなぁと思いました。
江端:「お金を受け取れるのは?」
行員:「来年の2月か3月ごろと、お考えください」
首を長くして待たなければならないようですが ―― まあ、私個人としては、たとえ返金が100円に満たなくても、それは、社会悪にキチンと対峙して、勝ち取った自分への勲章として ―― その同額のお金を、額に納めて飾るつもりです(本気です)。
(後編に続く)
・「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論 連載バックナンバーはこちら
・世界を「数字」で回してみよう 連載バックナンバーはこちら
・江端さんのDIY奮闘記 EtherCATでホームセキュリティシステムを作る 連載バックナンバーはこちら
江端智一(えばた ともいち)
日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。
意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。
私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。
本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。
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